●『君たちはどう生きるか』
毎年恒例のトロント映画祭が9月7日から開始した。今年は、その幕開けに宮崎駿の新作『君たちはどう生きるか』が上映された。これは日本以外の国での初上映となり、私も観客と一緒に観たのだけど、その拍手から宮崎駿への愛と敬意、そして新作を誰よりも先に観られることに興奮しているのが伝わってくる熱気だった。上映の翌日に、ニュースになっていたのは、上映前のレッドカーペットで、カナダのTV局CBCが、宮崎監督の代わりに来た西岡純一オペレーティングオフィサーに行ったインタビューだ。ここで、「これで引退と言われていますが、なんとかもう1本作ってくれるように説得できる人はいませんか?」と質問したところ、宮崎監督は、引退とは思っていなくて、すでに次の作品のアイディアがあることが判明したのだ。なんと嬉しい驚きだ。
彼が答えていたのは、
なんと素晴らしいニュースなんだろうか。というか、これはもう教訓?だけど、ミュージシャンでも、監督でも、クリエイターの言う「引退」は信じないほうがいい、と言うことだと思う。「世間の人は、そういう噂(引退)もしていますが、本人は、全然そう思っていなくて、今もう新しい次のアニメーションの構想を考えています。だから今も毎日会社に来て、次のアニメーションをどうしようか、と言っています。なので今回は引退宣言はしません」
宮崎監督の代わりに、西岡純一オペレーティングオフィサーが、代理でスピーチをして、それだけでも会場は大喝采だった。
「皆さん、今晩は。私は、日本のジブリのオペレーティングオフィサーです。今日は、宮崎駿監督の代理でここに来ました。
”The Boy and The Heron” は、まだ日本でしか公開されていません。つまり、あなた達は今日、海外で初めて観る観客なのです。すごくラッキーです。
日本ではこの映画は何の宣伝もなく公開されました。だから、物語も、登場人物も、公開の日まで、観客は全く知りませんでした。
何の情報もなくて、皆さんが映画を観る体験をしたのです。
おそらくこの劇場で今から観る方達にとっても、それは同様なのではないかと思います。
誰よりも早く、この映画をこの大きなスクリーンで観れることを楽しんでください。
この映画のタイトルは、”The Boy and The Heron”(少年と鷺)ですが、日本では、『君たちはどう生きるか』です。宮崎監督は、皆さんにこの映画を通して『いかにして生きるべきなのか』を問いかけます。なので、映画を観た後に、皆さんがどう思うのか楽しみです。皆さんにとって素晴らしい2時間となることを願っています」
さらに、同じ日の2回目の上映では、今度はサプライズで、ギレルモ・デル・トロまで登場。
「映画祭の開幕で、挨拶して欲しいと頼まれた時は、やりたいかどうか悩んでいたのだけど、ある時、それが宮崎映画だと知って、ここに来ました。映画祭は、どうすれば私が来るのか分かっているのです(笑)」
「この作品は、彼の最後の作品だと言われていますが、彼がここまでやってきたことを全て祝福するような作品になっています。彼は、アニメというメディアを変えた人であり、それ以来革命を起こし、何度も何度も、それがいかに壮大なるアートであるのかを証明してきました」
「アニメーションは、映画の中でも最高の形だと思います」
「そして僕が思うに、宮崎さんはアニメーションの監督として史上最高に偉大な監督だと思います」
「彼の映画には、彼と同様に、いくつのことが平行して描かれて、疑問が投げかけられています。簡単な映画ばかりではありませんが、彼を非常に親密に捉えています。なので、彼と会話を交わしているような気持ちになると思います。彼の映画には、パラドックスもあります。それは彼が美というのは、ホラーなしでは存在しないと分かっているからです。優雅さというのは、残忍さなしでは存在しないことも分かっているのです。それを融合させたものを描くことで、人生をスクリーン上で描いているのです。彼は同じモチーフを何度も何度も使います。飛行、希望、絶望、イノセントであることの力、イノセントであることの偉大さ、全てが平行していて、そこには人間性への信念もあり、そして人間性への傷心があります。どうか皆さんこの映画を楽しんでください。今日は日本以外の場所で初めて上映される世界プレミアなのです」
●『Perfect Days』
ヴィム・ヴェンダース監督で、役所広司が主演の『PERFECT DAYS』(日本12月22日公開)。この作品も、トロント映画祭初日に上映され、今年のトロント映画祭は優れた日本映画が目立つ幕開けとなった。
この作品は、今年カンヌ映画祭で上映され、なんと役所が最優秀男優賞を受賞している。さらに、アカデミー賞の日本代表作として出品されることも決定した。今作について、ヴェンダース監督と、主演の役所広司にコメントをもらうことができた。
ヴェンダース監督
●アカデミー賞国際長編映画賞日本代表作に選ばれましたが、どのように思われますか?
「すごく大きな責任だと思っています。でも、素晴らしいプロデューサーと、スタッフに囲まれて本当に感謝していますし、役所広司は日本で本当に愛されている俳優なので、今回選んでいただいたことを、喜んで受け入れさせていただきます」
●この映画を観た海外の観客に日本のどんなところが伝わればいいなと思いますか?
「日本以外に住んでいて、日本に旅行したことがない人たちは、日本社会に、ちょっとした”ユートピア”とでも言えるものを目にすることになると思います。なぜなら、日本社会全体における共通善とでも言うべきものを見ることができますから。それから日本の方達には、自分が正しく描かれている、と思ってもらえたら嬉しいです」
●他の国と比べて、日本での撮影で特に好きだったことはありますか?
「私は日本にはたぶん100回くらい行ったことがあります。だから日本が恋しく恋しかったのです。今回は仕事で行けて本当に嬉しかったのです。仕事ができるビザが出たおかげで、日本に行けたのです。日本に行けて本当に幸せでした」
●日本で撮影したことで、これまでにないような新しい体験、または挑戦はありましたか?
「この映画は、私がこれまで撮ったことがないような作品になりました。だからものすごく嬉しく思っているのです。私にとっては、贈り物をもらったような体験でした。だからこの作品が何らかの形で、お返しができるものであれば嬉しいです。世界への贈り物になっていると思うのです。この映画からきっと何か得るものがあるはずです。そういうことができる映画って本当に数えるくらいしかできないのです」
役所広司
●アカデミー賞国際長編映画賞日本代表作に選ばれましたが、どのように思われますか?
「僕だけではなくて、スタッフみんなにとっての楽しみが与えられたような感じがしました。いつまでも僕たちを楽しませてくれるような作品だと思っています」
●カンヌ映画祭でも最優秀男優賞を受賞されて、海外での高い評価を得ていますよね。
「それは嬉しいことだし、こうやって長い年月俳優という仕事をやってきて良かったなあと思います」
●長いキャリアで素晴らしい演技を見せてきていますが、今回ヴェンダース監督と仕事したことで、自分の中から新しい部分が引き出されたと思ったことはありますか?
「監督は、映画作りの楽しさを、僕らキャストとスタッフに教えてくれたと思います。非常に楽しい撮影現場でした」
今年は、その他にも巨匠と言えるような日本監督の作品が結集している。是枝裕和監督『怪物』、濱口竜介監督『悪は存在しない』など。これからもレポート続きます。
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