U2が、9月29日ラスベガスの最初テクノロジー会場スフィアで、こけら落とし公演”U2:UV Achtung Baby Live at Sphere”を行った。その2日目となる9月30日に、なんと幸運なことに会場で観ることができた。
すでに話題になっているので映像を観た方も多いと思うけど、これは想像をはるかに超えたこれまでにないライブ体験で、ライブのあり方、可能性を次世紀に向けて無限大に開いたとんでもない内容だった。さらにそのこけら落としをするのにU2以上にぴったりなバンドもいない。
U2は、これまでも常に、ライブ体験での新テクノロジー導入を積極的に行ってきたバンドだし、このライブが、2021年に発売から30周年を迎えた”Achtung Baby”と”Zoo TV”ツアーを祝してのものであることも、会場がラスベガスであることも、何もかもがU2以外に考えられない設定。
しかしこの会場は、当初の予算を10億ドルオーバーして、なんと23億ドルで完成(約3400億円!!)。ボノが途中で「たぶん22世紀までには回収できるんじゃないかな(笑)」と冗談で言ったけど、冗談でもないかもしれない(汗)。
NYのマディソン・スクエア・ガーデンを父から引き継いたCEOのJames Dolan(アイランド系!)が、大勝負に出て建築。エンターテインメントの未来を大きく変える最新コンサート会場となった。
既に公開されている映像と、私が撮った(撮影可)映像をいくつか紹介する。
個人的に中でも一番すごかったと思う映像に会場全体が飲み込まれるような瞬間。アンコールの”With Or Without You”。
エルヴィスが果てしなく続く。”Even Better Than The Real Thing”の22世紀版とでも言いたくなる映像。
『マトリックス』と”The Fly”の融合。
ボノ曰く安藤忠雄の”光の教会”に影響を受けたというオープニング。
ネバダ州で絶滅の危機にある生物たちに襲われるような”Beautiful Day”。
これでも本当に一部でしなくて、紹介し出したらキリがない。でも、このライブの異次元さが少しはわかってもらえたのではないかと思う。
この会場は、具体的に何が最新テクノロジーかと言うと、
1)オーディオ:HOLOPLOTを使用。スピーカーは見える場所にはひとつもない。が、計16万4千個のスピーカーが会場全体に内蔵。
ドイツ製HOLOPLOTは、”世界最新型コンサートオーディオシステム”とも呼ばれていて、どの席でも全く損傷なく同じクオリティのサウンドが聴こえる”波面合成技術”が使われている。全席、スピーカーが自分の目の前にあるように聴こえて、遠くから響いてくるようには全く聴こえない。また”没入型”サウンドシステムで、自分の席の空間全体を音が包み込むように響くように設定されている。さらに、音波を各席所定の方向に向けて送信できる”ビームフォーミング”を使用し、各アーティストが好きなように設定できる。
James Dolanは、「この会場のサウンドは、ミュージシャンのために作られている。ミュージシャンが、コンサート会場でしたいことは、観客と一体となること。そして、そのために作ったサウンドを観客に聴いてもらいたいと思っている。この会場以上にミュージシャンの意図したサウンドを観客に届けられる会場は世界にない」と語っている。
ボノは、ライブ中に、「この曲の叫び声ではなくて、今みたいにささやいた時に、どの席の人にもそのまま聴こえるようにするのに、23億ドルもかかったんだよ(笑)」と言っていた。
2)世界最高画質のLED:外壁は4K、内部は16K x 16K。面積580,000 スクエアフィート。世界最大で世界最高画質のLEDスクリーン。
その他
●建物:高さ111m、幅157m 世界最大の球状建築
●観客席は、ローマの円形闘技場をイメージして作られていて、高さは自由の女神以上あるが、急勾配で、誰もがステージに近く感じられるように建設されている。
●キャパ:17600席、(スタンディングも入れると2万人)
●席は4Dテク。温度が変えられたり、風を感じたり、匂いもする。
●カメラの開発:スフィアのスクリーンに映し出す高画質の映像を撮影するカメラも開発。316メガピクセル、3x3 inch HDRイメージセンサー。1秒120コマを18Kスクエアフォーマットで撮影可。
●バンドが立っているステージはブライアン・イーノがデザインした”turntable”の拡大版。
重要なのは、ボノがアップル・ミュージックのインタビューの中で言っていたけど、この何もかもが世界最大、最高の挑戦の「一番大事な目的は、観客との親密な結びつきを持つこと」と。彼らは、これまでもコンサートで数々の最新テクノロジーを自ら開発してきたけど、かつてから一貫してそう語っていた。
この巨大なシステムは、観客とより近くなるために作られているのだ。「最悪な席を最高の席にする」と彼らはいつも言っているけど、この会場で本当にそれが叶ったことになる。この会場のこけら落としがU2でぴったりであるとも思える理由のひとつだ。
また今回のライブを、バンドとして「最大の挑戦」であり、「こんな体験したことがない」とも言っている。デビューから40年以上のバンドが、いまだ最先端に立ち、新たな挑戦に挑んでいることも素晴らしい。
ライブを観ていて興味深かったのは、この会場はバンドにとって実際ものすごく大きな挑戦になるということ。と言うのも、観客が映像に目を奪われてしまうので、パフォーマンスが二の次になってしまう恐れがあるのだ。それをつなぎとめるくらいのパフォーマンスができるバンドでなくてはいけないし、だからU2がパイオニアとしてそれを買って出ると言うのもぴったりなのだ。
次に出演するバンドはここから学ぶことも多いはずだ。ボノはこの日異様に水を飲んでいた。それが彼くらい一流のパフォーマーでも大きな挑戦だったのでは?ということを伺わせていた。
私が観た日はディプロが来ていたみたいだ。
この会場は、ラスベガスということを考えてもEDMアーティストにも最適だ。何しろどの席でも音がクリスタルクリアで、映像が無限なのだから。新たなEDM体験の可能性も広がる。
初日は、ポール・マッカートニーも来ていたそう。ボノがトリビュートしている。サー・ポールも、自分もここでできるだろうか?と絶対に考えていたはずだ。
さらに、次にここでライブをやるアーティストとしては、ハリー・スタイルズの噂があるそうで、それは絶対にありだ! 世界最大最高画質のLEDでハリーが間近に見れるなんて最高。
U2のライブは、12月16日まで続くが、現時点では高いホテル付きのVIPパッケージなども含め、チケットは完全に売り切れている。
https://www.thespherevegas.com/shows/u2
スフィアの隣がホテルでそこが公式ホテルになっているのだけど、そこで、”ZOO STATION”というファンが体験できる展示がされている。さらに、アントン・コービンによる写真、映画上映、もちろんグッズ発売も行われている。これはライブのチケットがなくても誰でも無料で体験できるので、ラスベガスに行く予定がある人たちにはお勧めだ。映画上映だけは予約制で有料。
ちなみに、このライブが終わってすぐにNYに戻り、スフィアと関係の深いマディソン・スクエア・ガーデンでライブを観たら、ステージがあって、スピーカーが上からぶら下がって、後にスクリーンがあるというこの当たり前の設定が、正直とてつもなく古くて、不自由なものに見えてしまった。
U2のこの日のセットリストは以下の通り。”Achtung Baby”のツアーなので、アルバムからは全曲演奏されるし、”ZOO TV”ツアーがインスピレーションにもなっている。ライブは2時間。
そう言えば、ひとつ大事なこと。この写真や映像を見て、自分が行ったら酔うと思うと書き込みしていた人が割と多くいたけど、私自身映像に酔いやすい方で、IMAXで観る時も慎重に席を選んで買っているけど、この会場の映像は全く酔わなかった。それが不安な人はご安心を。
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