あと、椎木は歌いながらときどきはにかむように笑っている。その笑みが何を意味するのか、興奮なのか、恥ずかしさなのか、自嘲なのか、それとも意味なんかないただの癖なのか、わからないけど、その瞬間、彼は生の実感の真っ只中にいるんだと思う。
弦が切れてチューニングの狂ったレスポールをかき鳴らして、かすれた声で、先走る言葉に全力で手を伸ばしながら、椎木は今日も不確かだけど揺るぎない想いを歌っていた。
いきなり“真赤”で始まって、新曲もやって、ダブルアンコールの“夏が過ぎてく”まで。気を抜いたら消えていってしまいそうな記憶とか瞬きをしているあいだに過ぎていってしまいそうな今を自分と君だけのものにするための、必死の2時間。すごかった。