年末恒例のベスト・アルバム・リストが2021年も出揃った。ここ数年の傾向でもあるが、ケンドリック・ラマーなどが評価も売り上げもその年の決定的な1枚を出したような時とは違い、2021年も、各メディアのリストの25位くらいまでに登場するアーティストはほぼ同じだが、順位はバラバラという結果となったと思う。
それでも、例えば、主に米英大小メディアの年間リストを集計するウェブサイトalbumoftheyear.orgを見ていると、ぼんやりしていた2021年の音楽シーンの傾向が浮かび上がってくるように思える。まずメインストリームでこのバラバラな心をまとめた特筆すべき2人は、タイラー・ザ・クリエイターとオリヴィア・ロドリゴだろう。
タイラーは、デビュー・アルバムのリリースから10年後に発売した『コール・ミー・イフ・ユー・ゲット・ロスト』が彼のキャリアとヒップホップ・シーン両方で最高と賞賛され、そのまま今年の代表作となった。オリヴィアは、デビュー・シングル“ドライバーズ・ライセンス”で、驚異的なヒットを記録するも、『サワー』で“アルバム”として聴かせるソングライターとして、さらにパフォーマーとしての能力もある破格の才能を即座に証明した。
その他今年の年間ベストの特徴と思えるのは主に3つある気がする。1. ポップ・ミュージック、2 .女性アーティスト、3 .UK新人アーティストだ。ポップは、オリヴィア他、リル・ナズ・X、アデル、ビリー・アイリッシュなど。彼らこそ、今誰よりも自分達のか弱さや傷をさらけ出し世界と強烈な繋がりを持とうとした。
女性アーティストは全ジャンルにまたがり、リトル・シムズ、ジャパニーズ・ブレックファスト、アーロ・パークス、ジャズミン・サリヴァン、ウルフ・アリス、スネイル・メイル、セイント・ヴィンセントなど25位内に多くランクインしている。ビリーですら「権力があるからって人を傷つけないで」と歌っているが、女性がより主張し戦い、自己を新たな方法で表現する理由があることと関係していると思う。
最後に、ドライ・クリーニング、スクイッド、ブラック・カントリー・ニュー・ロードなど今シーンとして盛り上がるサウス・ロンドン発の新人のデビュー作に米メジャー誌の批評家もすごい勢いで反応、高評価したのも興味深かった。どのアーティストも今と最も強烈に独自の戦いを繰り広げ、結果誰よりも人との結び付きを生むアルバムを作った結果だったと思う。 (中村明美)
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