リバーブの靄の中に響く物憂げな声の心地よさに身を委ねていると、クライマックスに向かうにつれ伴奏とコーラスが厳かにスケールを増してゆき、絶頂を迎える頃にはそのカタルシスに危うく昇天しそうになる。突如投下された新曲“Did you know that there’s a tunnel under Ocean Blvd”は、前2作から連なる音楽性の下、またしても生み落とされた美曲であった。
また、この楽曲と同じタイトルのニューアルバムが3月10日にリリースされることが発表されている。もはやお馴染みのジャック・アントノフに、これまでも共作を行ってきたドリュー・エリクソンやザック・ドウズといったプロデューサー陣の並びはいいとして、驚いたのが客演するゲストたち。ジャック・アントノフ=ブリーチャーズ、ファーザー・ジョン・ミスティ、SSW/ピアニストのジョン・バティステ、バンクーバー発のラッパーであるトミー・ジェネシス、シアトルのSSWであるSYML、極めつきは牧師のジュダ・スミスと、共通点を見出すのも難しい一筋縄ではいかない面々が揃えられているのである。
ただひとつ確信するのは、これが彼女の思い描く作品を形作るのに必要な人選だったということだ。キャリアを振り返れば、全世界で700万枚を売り上げその名を広く知らしめた『ボーン・トゥ・ダイ』を最後に、彼女は作品を重ねるごとにトレンドやシングルヒットを追わなくなっていった。
そして、2019年の『ノーマン・ファッキング・ロックウェル!』で誰もがセールス以外のあらゆる面で『ボーン・トゥ・ダイ』を凌駕したと認める掛け値無しの傑作をモノにしたことが決定打となり、その後2021年にとことん表現を深化/純化させた『ケムトレイルズ・オーヴァー・ザ・カントリー・クラブ』と『ブルー・バニスターズ』という美しき2作をリリースしたのは記憶に新しいところだろう。
つまり、彼女は今キャリアの中で表現者としてやりたいことをやりたいようにできる解き放たれた状態にありつつ、さらにそれが素晴らしい成果へと結実する稀有な季節にあるということだ。さぁ、今度はどんな素敵な白昼夢を見せてくれるのだろう。 (長瀬昇)
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