現在発売中のロッキング・オン9月号では、マック・デマルコについてのレビューエッセイを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=平澤碧
マック・デマルコ6年ぶりの新作リリース、そして来日が決定!——この一報を目にした時、期待感が高まるとともに、なんだか、とてもむず痒い気持ちになった。すっかり忘れていた、2010年代半ば〜後半の空気が、ありありとよみがえってきたのだ。そう、何かにつけてチルアウトしていた、あの頃のことだ。当時、学生生活の真っ只中だった私は、それはもう熱病に浮かされたかのようにチルアウトしていた(付言しておくと、それくらいチルアウトの洗礼は鮮烈だったのだ!)。そしてチルアウトする時には、いつだってマック・デマルコがいたのである。河原でぼんやりと缶ビールを飲んだ夕暮れ。茹だるような暑さを避けてしけこんだ鄙びた喫茶店。友人のおぼつかないハンドルさばきで遠出をした晩秋の一日。どんな時にも、涼しげなギター&シンセ、力の抜けたボーカルと絶妙にヨレたグルーヴは、時間の流れを緩やかにし、黄昏たムードを醸し出してくれた。そこには、日常の何気ない一コマをロードムービーの一場面かのように錯覚させる、儚い魔力があった。
初めてマック・デマルコを聴いたのは、2017年のこと。3作目『This Old Dog』のリリース時で、私は大学2年だった。1曲目“My Old Man”の冒頭30秒間、あたたかなリズムボックスにギターのストロークが重なり、気怠げな歌声が入ってきた時点で虜になっていた。それに、遠い異国の地で鳴らされたとは思えないほどに、ここ東京での日常に馴染む音楽でもあった。私は聴いているうちに無性に散歩をしたくなり、講義をサボって街へと繰り出すことにした。その日のうちに、過去作も遡って聴き、すっかりマック・デマルコの音楽に心を奪われていた。散歩の道中、雑司が谷の鬼子母神境内の木陰でアイスコーヒーを飲みながら『This Old Dog』後半のあまりに沁みるシークエンス“One More Love Song”〜“On The Level”を聴いた。この時に覚えた、心身がスロウダウンしていく感覚は、まさにチルアウトだった。
それからというもの、マック・デマルコを起点にチルなインディロックを聴き漁る日々を送っていた。キーワードは、脱力系、ローファイ、ベッドルームの三つだった。(以下、本誌記事へ続く)
マック・デマルコの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
Instagramはじめました!フォロー&いいね、お待ちしております。