UKアンダーグラウンドの異端児:ヤング・ファーザーズ待望の4作目『ヘヴィー・ヘヴィー』は、タイトルに反して「大浮上!」の形容がふさわしい痛快な傑作になった。
9年前にデビューフルアルバム『デッド』で栄えある英マーキュリー音楽賞を射止め、オルタナヒップホップ/ R&B /ソウル〜ゴスペル/エレクトロ/アフロ/ポストパンク等、幅広い影響を貪欲にミックスする感性でマッシヴ・アタック、ノエル・ギャラガー、映画監督ダニー・ボイルまで幅広い支持を集めてきた。
00年代前半のアンチコン勢(クラウドデッド、サトル等)やTV・オン・ザ・レディオの系統を継ぐ、その刺激的かつ情報過多でめまいがするほどキネティックなミクスチャー性を絞り込んだ前作『ココア・シュガー』も素晴らしかったが、『ヘヴィー・ヘヴィー』は彼ららしいダンサブルでフックを活かしたマキシマムなポップ(“アイ・ソウ”、“ドラム”、“ホーリー・モーリー”)もばっちり聞かせつつ、ひたすら荘厳な“テル・サムバディ”やサイケでシンフォニックな“シュート・ミー・ダウン”といった癒しな楽曲も交える広がりを獲得している。
異端児、アンダーグラウンド……と、冒頭で何やら物々しい単語を並べてしまったが、地元エディンバラの地下室スタジオで、基本的に3人――14歳で出会って以来、がっちりタッグを組んできた人たちだ――でアナログ系機材を相手にアイデアや実験を重ね、特異な音世界をDIYで築いてきた彼らはまさに「地下派」。そのぶんベールに包まれてきたけれど、いよいよ「外」に出ようとしている。
本作向け公式取材でアロイシャス・マサコイ(Vo)は「このアルバムはヘヴィだから、このタイトルなんだ」と語っている。前作からの5年近くは彼ら自身にとっても色んな意味で重かったということなのだが、今は、時代そのものも重い。光を入れたい。本作の1曲目を飾る、燦々たる光に満ちた大らかな“ライス”で、彼らは《自分は魚をもっと摂らないと/もっと米を食わないと》と歌う。めげるのではなく、肩を落としているばかりじゃなく、まずは米を食い、力をつけ、今日と明日に向かおう――そんな、地下勢からのリアルな励ましをこの作品から筆者は受け取る。あなたは、どうですか? (坂本麻里子)
ヤング・ファーザーズの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』3月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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