チャーリー・プースのデビューシングルが“マーヴィン・ゲイ”であったのは、彼が目指す方向を示唆して興味深い。『The “Charlie” Live Experience』と銘打ったツアーのアジアレッグの終盤。体調を少し崩してファンイベントは断念したものの、黒いタンクトップ姿で登場した本人はしっかりと“チャーリー・ビー・クワイエット!”で公演をスタート。
ポップを土台にポップロックとR&Bを行き来する、ニュージャージー州出身、バークリー音楽院卒のシンガーソングライター。CMソングを手がける母親の影響か、耳に残るメロディを作れるのが強い。
バンドはツインギターとベース、キーボード、ドラムの5ピース。チャーリー本人がキーボードとショルダーキーボードを操り、歌唱とメロディを効果的に際立たせる。4曲目で日本でも大ヒットしたザ・キッド・ラロイとジャスティン・ビーバーの“ステイ”をカバー。チャーリーが制作陣のひとりとの情報が行き渡っていないのか、客席が一瞬、戸惑ってから喜びに変わった。
BTSのジョングクとの“レフト・アンド・ライト”や、“デンジャラスリー”あたりは合唱。R&B濃度が気になる筆者としては、“ウィ・ドント・トーク・エニモア”から1995年に射殺されたメキシコ系アメリカ人の星、セリーナの“眠れない夜”、ヒップホップソウルの名曲、マリオ・ワイナンズの“アイ・ドント・ワナ・ノウ”へのカバーメドレーがとくに響いた。チャーリーがさまざまな出自のポップを吸収してきたことを端的に示した瞬間だった。
育ちのよさは、曲ができた背景を説明してから歌い出す姿勢にも表れていた。最後は“ワン・コール・アウェイ” と、映画『ワイルド・スピード』の故ポール・ウォーカーへの追悼曲“シー・ユー・アゲイン”。ここで、観客席から自然にスマホのライトが掲げられ、合唱になった。ラッパーのウィズ・カリファ名義だが、曲を書いたチャーリーのカラーが強く、聴くたびに亡くなった友人を思い出させる名曲だ。チャーリー・プースは、歌声とメロディの美しさでポップ街道を邁進する。それがよくわかった夜だった。 (池城美菜子)
チャーリー・プースの記事は、現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。
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