大事件だったボブ・ディラン1978年初来日 ―― 列島に巻き起こった衝撃と感動のすべてが刻まれた『コンプリート武道館』徹底レビュー

rockin'on 2023年12月号 中面

現在発売中のロッキング・オン12月号では、ボブ・ディランの『コンプリート武道館』ロングレビューを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。



文=大鷹俊一

ニール・ヤングウィリー・ネルソンらが心血を注ぐアメリカの小規模農民への支援、「ファーム・エイド」の23年版になんとボブ・ディランがサプライズ出演、しかもここ何年も持ったことのないエレキギターを手に“マギーズ・ファーム”“寂しき4番街”“やせっぽちのバラッド”を歌うのには心底驚かされた。ちょうど11月に発売の初来日公演のライブ盤『コンプリート武道館』を聴いて感動させられたばかりなので、改めて時代、次元を自在に飛び回るバケモノ感にため息が出る。

ありとあらゆるものが発掘され尽くしたこの時代に、まだこんなものが、と素直にびっくりしたのが『コンプリート武道館』で、78年の初来日公演ライブ盤は最初日本だけで同年『武道館』(Bob Dylan At Budokan)のタイトルで2枚組LPがリリース。海外ではブートが作られたりして翌79年に世界発売されたが、その元となったライブ完全収録マスターテープを07年に発見したことがきっかけで、今回の日本主導の発掘プロジェクトとなった。ディランほどの大物からこうした音源の許諾を取るのがいかに大変な交渉事かと想像がつくが、その苦労が報われる歴史的な作品となっている。

時計を巻き戻そう。最後の大物と言われたディラン初来日公演が実現したのは78年2~3月のこと。2月20日、21日、23日、28日、3月1日~4日の計8回が東京の日本武道館、2月24日~26日の3回が大阪の松下電器体育館で行われたが、この時の大騒ぎっぷりをいま伝えるのはなかなか難しい。ファンや音楽誌以上に大手マスコミが、「反戦歌の旗手」に始まるディランの伝説部分にノリたかったのか、舞い上がって大騒ぎとなったのだ。

もちろんファンは『血の轍』(75年)、『欲望』(76年)と70年代を象徴する傑作を連発し、しかも「ローリング・サンダー・レヴュー」と称した意欲的なツアーを展開してた頃だけに期待値マックスではあったものの、いったいどんなディランが見られるのかは予測できなかった。(以下、本誌記事へ続く)



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