現在発売中のロッキング・オン3月号では、ザ・スマイル:トム・ヨークのキャリアを徹底検証するロングレビューを掲載しています。
以下、本記事の冒頭部分より。
文=坂本麻里子
レディオヘッドのデビューから数えても、トム・ヨークの音楽キャリアは優に30年を超す。この間にスタジオアルバムだけでもレディオヘッドで9枚、ソロ〜サイドプロジェクトで7枚。90年代に登場したUKロック勢でこのレベルの活発な創作/カリスマ/人気&評価を維持しているのは、恐らく他にデーモン・アルバーンくらいだろう。いまだ変遷し続けるその世界と進化の過程を、ソロ活動を中心に振り返ってみたい。
ロックなカタルシスの先へ
トムは『OK コンピューター』(97)前後にソロとして動き出した。ゲストボーカル参加(スパークルホース/97年、ドラッグストア/98年)から始まり、同輩女性アーティストとのデュエット(ビョーク、PJハーヴェイ/共に00年)が続いた。インディ/オルタナ交友録を感じるコラボだが、そのベクトルは当時のUKシーンの趨勢から外れている。
極論すれば「ビートルズ&ストーンズ」だったブリットポップブーム期に冷遇されがちだったプログレ、その権化=ピンク・フロイドの“あなたがここにいてほしい”のカバー。新政権誕生に浮かれていた英国のムードにそぐわない、南米民主主義の失墜を悼むポリティカルソング。真の意味でパラダイムシフトを起こした革新的女性アクトをリスペクトし、彼女たちの世界の一部になる勇気(これはマッチョでエゴの強い男性にはなかなかやれない)。
これら「外に開かれた」共演は、90年代らしい折衷&実験精神の現れだ。と同時に“シガレッツ&アルコール”で“ボーイズ&ガールズ”な自国の風潮に対する不信、そして「グランジバラード」の大ヒット“クリープ”(92)と『ザ・ベンズ』(95)で固まった「ラウドなオルタナギターロックの顔」のパブリックイメージからの離脱の意思も感じる。
その意味で特筆すべきはアンクルの“ラビット・イン・ユア・ヘッドライツ”(98)参加だ。学生時代からテクノやエレクトロニックミュージック――90年代にイギリスで盛り上がったもうひとつのジャンル――に傾倒していたとはいえ、“エアッグ”(97)のドラムをインスパイアしたDJシャドウがサンプリングとループを駆使して構築した音像をバックに歌う体験は、ロックの伝統的なメソッド外の可能性を彼に大きくインスパイアしたんじゃないだろうか。(以下、本誌記事へ続く)
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