「(苦笑)。ああ! うん」
●――その言葉は浅薄すぎると私は思っています。あなたのファッションやアルバムジャケットのアートワークの美学に対するこだわりは何を意味するのか、ご本人から語ってもらえないでしょうか。今日も、とてもお洒落ですね(※この日のフェリーは、ダンガリーシャツの上に黒のスポーツジャケット姿。たまに資料等を読む際には、べっ甲縁の丸眼鏡をかけていた)。
「(自分の今日の装いは「普通ですよ!」と言うように、軽くおどけたポーズを取りながら)私は、ファッション(流行)を『追いかける』ことには興味がないんだ。けれども概して言えば、私は物事の『デザイン』に興味がある。デザインには興味があるが、ただし、最新のファッションをフォローすることに興味はない、と。いやまあ、(苦笑)常に自分らしくあろうとしている、ただそれだけなんだがね……そうは言っても、自分が好む一定の服であるとか、そういったものはある。全般的に言えば、『クラシック』な類いのものが好きだね。概して、古典的なもの。古い映画が好きだしね。昔の映画の中に出て来る、人々のルックスが好きなんだ。ケリー・グラント、ハンフリー・ボガードといった面々は皆、私には常に魅力的に映る(笑)。それに、あの手のファッションは5年おき、あるいは10年おきにリバイバルするものだから。常にリサイクルされているし、それは君も目にしてきたはずだ」
●はい。タイムレスなスタイルがお好きだ、ということのようですね。
「ああ」
●あなたはビジュアルとサウンドとの間に非常に細かく密な関係を築いてきました。これはなぜなのでしょう?
「うん、それはやはり、私がビジュアルアーティストとして訓練を積んだからだし、私自身、ビジュアルな物事がとても好きだからだよ。実際、友人の多くはビジュアル系の仕事をやっている面々だと思う。美術館やアートギャラリーに行くのが好きだし……だから私は今も、自分はアーティストだと感じている。ただし、私がアート作りに取り組むのは音楽の世界においてだ、ということ。そんなわけで、なんらかの作品のカバー(ジャケット)を作る段になると、関与したくなってしまうんだ。『これこれ、こういう風にしようじゃないか』という具合に。けれども、私は常に他の人々からの意見も含めたいんだよ。それは例えば、フォトグラファーかもしれないし、タイプフェースを選ぶ人間、ということもあるだろう。コンピュータ関連の作業をしてくれる人かもしれない。そういった、作品に関わってくれるあらゆる人々からの意見を聞きたいね。そうは言っても……私は監督する(direct)のが好きなんだな」
●そこに関しては、あなたは良い意味での「専制君主」なんでしょうね。
「(苦笑)。うん、たぶんね」
●ソロの話から少し外れるのですが、あなたは昔から自分が「ヨーロッパ人」であること、「白人」であることに批評性と距離感を持っているロックミュージシャンでした。あなたはヨーロッパ人であり、もちろん英国人であり、しかしアメリカの黒人音楽を敬愛する面もあり、と非常に複雑ですよね。
「でも、そのどれもが私だからねぇ(苦笑)」
●ロキシー・ミュージックの初期は、そうした多彩な影響が混在することで未来/宇宙的なサウンドを生んでいました。ところがバンドの後期、『フレッシュ・アンド・ブラッド』や『アヴァロン』の頃までに、特にアメリカでは、ロキシー・ミュージックは「ヨーロピアンで都会的な洗練」を体現する存在になりました。60年代以降、ロックは主に若い白人男性の表現フォーム/媒体になっていたわけですが、そうしたヨーロッパ/白人ロックから逸脱しながらヨーロッパ白人的な美学を極める、というアクロバットのような道をロキシー・ミュージックは最後まで全うしたと思います。
「実際、ロキシー・ミュージックはもっと普遍的なものになった、ということだね、うん。かつ……恐らく『アヴァロン』までに、ロキシー・ミュージックはもっと姿勢/態度に駆り立てられたものになっていたんじゃないか、私はそう思う。たぶん、だからなんだろうね、もっと広い層にちゃんと届くことになったのは。というのも、人々が求めるのは……つまりあの作品には、いわゆる『美術学校生的な妙なアジェンダ』は一切含まれていなかった、と(苦笑)」
●確かに。
「私たちが『アヴァロン』に達する頃までには、ロキシー・ミュージックはある意味、純粋に音楽と言葉になっていたわけで、そこに、人々も反応してくれたんじゃないだろうか?」
●(笑)。ヨーロッパ人としてのご自分の面には、どんな思いを持っているのでしょうか。例えば“ヨーロッパの哀歌“ですが――
「(笑)。ああ、あれは少し奇妙な曲だよね」
●あの曲名はユーロビジョン・コンテストに対する皮肉でもありますし、歌詞もヨーロッパのイメージのパロディと言った具合で、アンビバレンツがあると思います。ヨーロッパ人であることを、どう捉えていますか?
「どうだろうね、今の私は――何しろ、これだけ歳を取ったから。だから今はシンプルに、自分もこの一部なんだ、と思っている……いや、私は自分自身のルーツを愛しているんだよ。英国北部生まれの、貧しい労働者階級出身のイギリス人としてのルーツ、そのもろもろを愛している。自分のその面は、心底好きなんだ。ところが私という人間は、そうだねぇ、なんというか、生涯を通じてどんどん変化していった、ということじゃないかな? 例えば、欧州を訪れてパリ、ベルリン、ミュンヘン等を知り、それから東京に、そしてロサンジェルス、ニューヨーク……といった具合に、各地で色々な都市を発見してきたんだ! だから、ミュージシャンでいられるのはとてもラッキーなことなんだよ、そうやって世界中をさんざん旅して回れるんだから。しかも訪れた各地で、美しい物を山ほど目にすることができる。
そんなわけで、私はそうした様々すべての混ざり合った存在なんだ。ヨーロッパ文化も好きだし、ブリティッシュ文化も、アメリカ文化も大好きだ。日本についても、もっと詳しければいいんだけれども……でも、日本に行くたび毎回、素晴らしい時間を過ごさせてもらってきたよ。東京に、とても仲の良い親友がひとりいてね。川西浩史(※スクリーンプリント作家)なんだが、本当に長い付き合いでね。私のキャリアの始まり、その最初の頃からの知り合いだ。彼は以前、ニューヨークで暮らしていてね。ジャスパー・ジョーンズ(※米ポップアート画家)とも仕事した間柄だったんだ」
●5年前の来日では小さなコンサートホールでのライブで、オールタイムベストのようなセットリストで最高でした。こうして『レトロスペクティブ』も出ることですし、また来日公演をぜひ考えてほしいのですが。
「んー、まずはまあ、日本の人々がこの『レトロスペクティブ』を気に入ってくれたらいいな、そう願っているよ。うん、こうして私たちがボックスとしてまとめたものを、気に入ってもらえたら嬉しいね。日本の人たちもこの作品に込められた色々な努力を、いかに細部まで丹念に作られたものかを、理解し、味わってくれるだろうと思うから。でも、それと同時に、日本のリスナーは、私の新しい作品も気に入ってくれるんじゃないかな? 来年上半期に出る予定の、新作をね。とてもクールな作品だから、日本の人々は、そこに良く反応してくれるんじゃないかと思う」
●今日はお時間をいただき、本当にありがとうございました。お話を聞けて、とても楽しかったです。
「ああ、私も同感だよ。君は私について、なんでも知っているらしい! ハッハッハッ!」