日経ライブレポート「ジェイムス・ベイ」

ジェイムス・ベイのデビュー・アルバム「カオス&ザ・カーム」を聴いて、ソング・ライティング能力の高さに驚いた。フォーク、ブルース、カントリー、ロックン・ロール、いろいろな音楽スタイルを自分の中で肉体化し、オリジナルなスタイルとして表現する才能は破格のものだ。

特に代表曲「ホールド・バック・ザ・リヴァー」はメロディーの洗練度において、多くのスタンダード・ナンバーと互角に張り合える完成度だ。これが新人のデビュー・アルバムに収められているのが驚きであった。他の曲も新人とは思えない見事なメロディーを持っていて、並の新人とは違うスケールの存在だということが分かる。

実際、アルバムは全英チャート1位を獲得、発表から約1年経っているのに、いまだにトップ10にランクされロング・ヒットとなっている。グラミー賞も新人賞など3部門にノミネートされた。

そんな2015年を代表する新しいロック・スターの初来日コンサートが行われた。僕が予想したものよりオーソドックスなロック・パフォーマンスだった。新しいテクノロジーよりプレイヤーの肉体から生まれるグルーヴを大切にした、ある意味20世紀的といってもいいたたずまいで、しっかりと彼の体温と肉声が感じられるステージだった。

ルックスにも恵まれ、若い女性ファンの歓声も多かった。そうした面でも最近にない王道のロック・スターとしてのオーラを感じさせる。まだ25歳と若いので、これから自分の可能性を伸ばしていくうちに、いろいろ変わっていくだろうと思わせる楽しみな才能だ。次は8月のサマーソニックで来日するが、新しい何かを見せてくれる気がする。

3日、EXシアター六本木。
(2016年3月23日 日本経済新聞夕刊掲載)
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