日経ライブレポート「ボン・イヴェール」

ステージ上段に2台のドラム・セット。その間に3人の女性コーラス。他のメンバーはその下に並ぶ。かなりユニークなたたずまいだが、演奏が始まると、その視覚的ユニークさがバンド・アンサンブルの必然だと分かる。

2台のドラムが紡ぐ複雑なビートに限りなく美しい女性コーラスが織り込まれていく、唯一無二の音の世界に圧倒される。その音の上でジャスティンのファルセット・ヴォーカルがフォーキーで、どこか宗教性を感じさせるメロディーを歌いあげる。とても感動的なステージだった。

ボン・イヴェールは米国のオルタナティヴロック・シーンを代表するアーティスト。2011年に発表されたセカンド・アルバム「ボン・イヴェール」は全米アルバム・チャートで初登場2位、世界的にも大ヒットを記録した。第54回グラミー賞では4部門にノミネートされ、最優秀新人賞とオルタナティヴミュージック・アルバム賞を受賞している。既に人気も評価も世界的に高いアーティストなので、ようやく実現した今回の初来日公演はファン待望のものだった。超満員の会場の熱気は凄かった。

聴いてすぐに誰もが熱中するような分かりやすいスタイルではないが、聴く側に高い音楽的な理解力や忍耐を求めるものでもない。基本的には、とても聴き手に開かれた音楽だ。ライヴではよりその解放感は強まり、歌の持つ官能性も高まる。

今、ポップ・ミュージックはスタイルの革命期に入っている。従来のジャンル分けならフォークと呼ばれる彼のスタイルが、ドラム2台を必然と感じさせるものになっているのが、とても今を感じさせるライヴだった。

2月29日、新木場スタジオコースト。
(2016年3月15日 日本経済新聞夕刊掲載)
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