バンドを解散し、最初のソロ・ツアーでこれほどその解散したバンドのナンバーを歌ったアーティストはあまりいないのではないか。アンコールでは4曲中4曲、まるでオアシスのライヴかと突っ込みを入れたくなる展開だった。無論、客席は大喜び。来たお客さんは誰もが満足するライヴだったのではないだろうか。
だからと言ってノエル・ギャラガーが自らのソロとしての世界観をこのコンサートで提示できなかったわけではなく、むしろオアシス・ナンバーを自らのソロ・ナンバーのように聴かせてしまっていた。彼がソロの第一作で提示した音楽世界は、オアシスのものとはかなり違っていた。オアシスが限りなくイギリス的なビッグ・ロック・バンドだとするならば、ノエルのソロはある意味アメリカン・ミュージックの強い影響を受けた、オアシスより聴く者を限定するサウンドだと言える。その新しい世界観を提示したソロ・アルバムからもほぼ全曲演奏し、彼がミュージシャンとして新しいステージに立っていることを、しっかりと会場のお客さんに伝えることができていた。
素晴らしいのは、そのこととオアシスの代表曲を多数演奏することが全く矛盾していなかったことだ。簡単に言ってしまうと、オアシス・ナンバーであろうがソロ・ナンバーであろうが、どちらも作っているのは自分なのだというノエルの「俺様主義」が、オアシス・ナンバーもソロの文体の中に自然に収めてしまうという成果を生んだのだろう。新バンドを結成したりソロになったりすると、過去のバンドの曲は歌わないというアーティストは少なくないが、僕は今回のノエル・ギャラガーのアプローチを支持したい。
1月17日、TOKYO DOME CITY HALL
(2012年1月31日 日本経済新聞夕刊掲載)
日経ライブレポート「ノエル・ギャラガーズ・ハイ・フライング・バーズ」
2012.02.03 17:20