星野源の「恋」、歌詞もだけど曲のここがすごくいい!

あと出しジャンケンみたいな原稿になってしまうので書くの止そうかとも思ったんだけど、どうしても文章にしておきたいのでやっぱり書きます。
 
星野源の”恋”を聴いた時、「速いっ!」と思った。そして同時に「天才!」と思った。この曲のこの速さ──文字通り、テンポとしての速さ──それこそがこの曲の本質だ、と思った。
 
そして本誌今月号のインタビューで星野源はこう答えている。

「実際この曲はもっと遅かったんです。ものすっごい遅かったんです。(中略)で、それが全然満足できなくて、『なんだかなあ』と思ってて。その中で、う〜んって悩みながら家でウンコしてる最中に頭の中でBPMがギュ〜ンと上がってきて。で、このテンポになったんです。そしたらもうその瞬間にバキーン!となって(笑)、『これだ〜!』みたいな」

 本人も言っている通り、やはり”恋”という曲の命は「速さ」なのだ。

 
“恋“に限らず、星野源の音楽にとって「速さ」は非常に重要なポイントである。
星野のライブに行ったことがある人ならわかると思うが、星野源の曲は「ものすごくゆっくり」に感じる曲か、「ものすごいスピード感」に溢れた曲か、だいたいどちらかである。
中間がないのである。
いや、実際には普通のミドルテンポの曲はもちろんあるのだが、そう感じさせないのだ。
静かに耳を澄ませているときのようにゆっくりと時間の流れる曲か、すべてが一斉に輝き始めるような躍動感とスピード感に満ち溢れた曲か、そのどちらかしかないように感じさせられてしまうのである。
それが星野源のマジックであり、最近になって彼が自分の音楽について語る時に使う「イエローミュージック」とはこのマジックのことを指すのだと僕は思う。

 
音楽の要素、にはいろいろある。音色、グルーヴ、音量、アンサンブル、メロディー、などなど。そして「速さ」というのは見過ごされがちだがとっても重要な要素だ。
 
60年代のモータウン・サウンドをただひたすら速く演奏することでパンクにしてしまった70年代のザ・ジャム。
70年代のR&Bを倍速でサンプリングして最新のヒップホップにしたカニエ・ウェスト。
古き良きジャパニーズ・ポップスを加速させて躁状態の渋谷系ポップスとして再生させたオザケン。
J-ROCKをけたたましくスピードアップさせてテンションを上げる、ボカロ/アニソンの方法論。
ポップスのメロディーを2ビートで加速してパンクにしちゃおうぜ、というメロコアの発想。
などなど。

では、なぜ音楽にとって「速さ」がそこまで重要なのか。
それは、「速さ」とは「時間の流れ方」のことであり、「時間の流れ方」は時代や場所によって決まるものだからだ。
昔には昔の、今の時代には今の時代の、日本には日本の、欧米には欧米の、それぞれの時間の流れ方があり、それにふさわしい音楽の「速さ」がある。
その速さを的確に捉えることが、音楽家にとっては非常に重要なことなのだ。
 
「今の時代の、今の日本人によるダンス・ミュージック、ポップス」として「イエローミュージック」を確立しようとしている星野源が、“恋”の曲のテンポにこだわったのは非常に頷ける話だし、そこを掴んでいる星野源だからこそ、新しい日本のダンス・ミュージック、ポップスを確立していけるのだと思う。

(ロッキング・オン・ジャパン12月号 『激刊!山崎』より)
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