ベスト盤、について書こう。
ベスト盤というのはつまり、ヒット曲や代表曲を集めたものだから単純明快なものだと思いがちだが、いやいや、あながちそうでもない。
そもそも、ベスト盤を出すときにたいがいのアーティストは
「レコード会社が出せというから出す。僕らが出したいと思っているわけじゃない」
的なことを言う。
アーティストはいつだって最新作を聴いてほしいと思っていて、ベスト盤は「大人の事情」や、ヒット曲に乗じてファンを拡大しようという思惑や、デビュー○周年の企画、などによってリリースが決まることが多い。
だから、アーティスト本人たちがまったく制作に関わらないベスト盤というのも数多くある。
選曲も曲順もタイトルもジャケットも全部スタッフにお任せ、というベスト盤はたくさんある。
オリジナル・アルバムだったらそんなことは絶対にありえない。
なんでアーティストはベスト盤というもの対して消極的なのか。
それにはいろいろ理由があるが、「本当は自分たちの自信のある曲、推したい曲を選びたいのに、ヒット曲や人気曲を選ばなければならない」という時点でモチベーションを失ってしまう、というのが大きい。
シングル曲や人気曲を選んで並べるだけなら自分たちがやらなくてもいいじゃん、ということである。
中には「メンバーが気に入ってる曲や、自分たち自身が推したい曲を入れよう」という感じで制作がスタートするベスト盤もあるが、結局は途中から「やっぱりこの大ヒット・シングル曲は入れとかないと」「ファンに一番人気のこの曲を外すわけにはいかないよ」「どうせベスト盤を出すなら売れないと意味がないよ」的なことにどんどんなってきて、最後にはスタッフに任せて出来上がる、なんてケースも僕はいくつも見てきた。
だから、ベスト盤って簡単そうに見えるけどなかなか大変なんだなあ、と思うわけである。
エレカシの30周年ベスト盤の時なんて、宮本は曲を選ぶのに疲れ果ててげっそりしてたもんなあ。
曲が30年分あるから、2枚組にしてもシングルすら全部入りきらないんだよね。
難しい言い方をすれば、ベスト盤を制作するということは、自分を相対化するということだ。
過去の自分とどう向き合うか、ということなのである。
ベスト盤のインタビューをする時に僕がいつも着目するのはそこだ。
ミスチルもバンプもアジカンもエレカシも、それぞれのアーティストがそれぞれのやり方でそれまでの自分たちを相対化しようとした、その結果が形になったものが、それぞれのベスト盤なのだ。
さて、UVERworldの今回のベスト盤は3枚組である。
3枚組のベスト盤って、それベスト盤でもなんでもないじゃんと最初は思ったのだが、いやそう思った僕が間違っていた。
今回の彼らのベスト盤は、ある意味ベスト盤の理想形、究極のベスト盤と言っていい。
まず、一枚がメンバーが選んだ「メンバーセレクト」。
二枚目がファンが選んだ「ファンセレクト」。
そしてもう一枚が「バラードベスト」。
この「バラードベスト」は過去の曲からバラードを選んで全曲新たに歌入れ、再レコーディングしている。
つまりこの3枚組のベスト盤は、ファンが聴きたい曲と、自分たち自身が聴かせたい曲と、今の歌と演奏で過去曲を聴かせるためのものと、その全部を迷わず全部やっちまった前代未聞のベスト盤なのである。
迷うなら全部やればいいだろう、ということなのである。
実に明快だ。
そして、買った人にとって「人気曲」と「本人たちの推し曲」と「初めて聴く新バージョン」のどれもが聴けるベスト盤というのは、これ以上望むべくもない究極のベスト盤である。
今月号のJAPANのインタビューでTAKUYA∞はこのベスト盤を嬉しそうに語り、モチベーション高く細かいところまで解説してくれた。
企画にしっかりと関わり、メンバー全員で選曲も行ない、バラード曲全15曲を歌い直すという大変な作業をやりきったからこそ、だろう。
「歌い直して、もう一回自分たちの歩いてきた道筋みたいなものを確かめられたのはよかったなあと。それだけでもこれやった意味があった。きっとファンの人は喜んでくれると思う」。
そう語るTAKUYA∞の真剣な表情は、オリジナル・アルバムを語るときとなんら変わらなかった。
(山崎洋一郎)
コラム『激刊!山崎』より
ベスト盤とは何か、について書きました
2018.07.17 18:25