(無題)

(無題)

タクシーに乗って、行き先を告げたあと、「すみませんが、ヘッドホンをして音楽を聴くので、なにかあれば手振りで知らせてもらえますか」と頼んだ。その初老の運転手さんは「ジェスチャーですね?わかりました」と言って車をスタートさせた。僕はiPodを聴き始めた。
そしたらその運転手さん、しばらくすると突然、頭を抱え始めた。そうかと思うと阿波踊りみたいに両手をヒラヒラさせ始めた。様子がおかしいと思ったが、まあ目的地に届けてくれればいいやと思ってそのままiPodを聴いていた。そして、曲がり角にきた時に運転手さんが両腕を上げて大きく左に倒した時、僕はようやく理解した。
その初老の運転手さんは、僕に話しかける代わりに、その内容を全部ジェスチャーで伝えていたのだ。混んでいて困ったなぁ、とか、雨が降ってきましたねぇ、とか、一生懸命いちいち身振りで話しかけていたのだ。「いや、なにか用がある時だけでいいんです」と今さら言うのもアレだから、最後までおじいちゃん運転手の懸命のジェスチャー大会を後ろから見ながらiPodを聴いていた。
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