間違いなく彼の最高傑作。
そして、今年の最も話題となる小説になるのではないか。
今の時代を物語として描くことは困難だ。
なぜなら、「物語を失った時代」という物語は、作家も主人公も必要としないからだ。
強引なストーリーと第六感のような裂け目によってその物語から脱出しようと試みる白石一文も頼もしいが、
過去の濃密な物語をサンプリングして「今」と混ぜ合わせながら、新しい物語を浮かび上がらせようという樋口の今作は鮮やかだ。
過去の名曲・名フレーズをサンプリングしてブレイクビーツを作り、時代の新たなグルーヴを生んだHIPHOPの痛快さに似ている。
日本の文学のレアグルーヴのかっこよさに打たれながら、今のビート感に乗って一気に読んだ。