話題沸騰。本年度アカデミー賞最有力との呼び声高い映画『ROMA/ローマ』、ベックら参加のインスパイア盤を聴こう

話題沸騰。本年度アカデミー賞最有力との呼び声高い映画『ROMA/ローマ』、ベックら参加のインスパイア盤を聴こう

もしも周りでNetflixへの加入を躊躇っている人がいたら、この映画を観ることができるという点だけでもお試し加入を勧めたくなってしまう、そんな映画が『ROMA/ローマ』だ。

『ROMA/ローマ』はヴェネチア国際映画祭の金獅子賞やゴールデングローブ賞の外国語映画賞をはじめ、世界中で賞を総なめにしている作品で、本年度のアカデミー賞でも作品賞の最有力候補との呼び声も高い。オバマ前大統領が2018年のフェイバリット映画の一本として名前を上げたことでも話題となった。Netflixが配給権を獲得したことで、そんな注目の作品が日本では現時点でNetflixだけで観ることができるのだ。


物語の舞台はイタリアのローマではなく、メキシコシティのローマだ。政情不安定だった70年代のメキシコシティ、その街で住み込みの家政婦として働くクレオと、彼女が働く家庭の人々の日常が描かれる物語で、彼女達のささやかな日々の出来事の積み重ねを淡々としたタッチで映し出す映像の美しさが極まっている。モノクロ映画なのに、いや、モノクロだからこそ、光と影のコントラストによって背景のディテールまで捉えた奥行きが生まれているのだ。本作の監督は『ゼロ・グラビティ』でアカデミー賞監督賞を受賞し、その映像美には提供があるアルフォンソ・キュアロン。『ROMA/ローマ』は70年代のメキシコシティで少年時代を過ごしたキュアロンの自伝的作品でもある。

キュアロンはスクリーンに映り込む全ての風景に物語を宿す一方で、クレオを演じたヤリッツァ・アパリシオを筆頭とする役者たちの表情には、その芝居自体には敢えて物語を語らせようとしない特殊なマナーで、本作を極めて絵画的に撮っている。何しろクレア以外の登場人物には、物語の終盤を除き表情を真正面から捉えたショットすらほとんどないのだ。

クレオはしばしば「窓越し」に人や街を見つめている。彼女が働く家のあちこちには本が積まれ、家具に遮られ、カメラはしばしばそれらの「障害物越し」に家族の営みを映し出す。また、「背中越し」のシーンも多い。そうして敢えて直接的な描写やクローズアップを避け、一人称的な感情の吐露をスクリーンから排除することを監督は意図的に行っている。だからこそ全てのタガが外れたように彼女たちの感情が荒れ狂い、互いを求めあってひとつになるクライマックス・シーンに、どうしようもなく心揺さぶられるのだ。

そんな『ROMA/ローマ』にインスパイアされた曲をアーティストたちが提供し、コンパイルされたアルバムが『Music Inspired by the Film Roma』だ。同作はいわゆるオリジナル・サウンドトラックとは別で、実際に劇中でフィーチャーされた楽曲ではない。映画の「余韻」と「反芻」の意味を持った作品と言える。



昨年最高の話題作のインスパイア盤だけに、ベックパティ・スミス、ビリー・アイリッシュ、DJシャドウ、アンクル、ローラ・マーリングら錚々たるアーティストが名を連ねているのだが、中でも聴きどころはベックの“Tarantula”で、ファイストをボーカル・ゲストに迎えている。 “Tarantula”は80年代のUKエレクトロニック・グループ、カラーボックスのカバーで、ベックが父デヴィッド・キャンベルとタッグを組んで作り上げた壮大なオーケストレーションも感動的な仕上がりだ。


また、今回のインスパイア盤のために新曲を書き下ろしたのがビリー・アイリッシュの“WHEN I WAS OLDER”。タイトルになった「僕が大人だったとき(When I was older)」とはクレオが働く家の子供のセリフで、『ROMA/ローマ』が監督キュアロンの自伝的作品であることも踏まえると、同作のテーマを示唆する重要なセリフでもある。ビリーらしいダークなエレクトロ・チューンだが、ミニマムな反復が少しずつ昂り、感情の湿り気を帯びていく様が、映画と見事にシンクロしている。


『Music Inspired by the Film Roma』を聴いていると、『ROMA/ローマ』の重要なモチーフのひとつが「水」であったことを思い出す。クレオが毎日掃除をして洗いながすガレージの水も、そしてもちろん、クライマックス・シーンのクレオの慟哭の象徴としての荒ぶる波も、何気ない日々の積み重ね、その反復の先に永遠の一瞬が宿るという映画的神話性を象徴するものだったが、ビリーの“WHEN I WAS OLDER”や、オーケストレーションが打ち寄せる波を想起させるベックの“Tarantula”を聴いていると、改めて同作のエンディングの深い感動を呼び覚まされるのだ。(粉川しの)
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