前回の来日から約2年ぶりのミツキの来日公演は、予想をはるかに上回る素晴らしいライブだった。渋谷WWW Xでの公演は、予想通りソールドアウトで超満員。昨年8月にリリースした新作『Be The Cowboy』が世界的な高評価を受け、シンガーソングライターとしても表現者としてもさらなる自信を手に入れたであろうミツキのパフォーマンスに、一時たりとも目を離すことができなかった。白いシャツに黒のスカートという、いたってシンプルな出で立ちも、彼女の独特のダンスや動きによる表現がより際立つように計算されたもののように感じられるほど。

前回の、初のバンドセットでの来日も、彼女の歌が表現する痛みや切なさをしっかり感じさせてくれるステージだったが、今回はミツキ自身がしっかり客席と向き合い、表現すべきことをアートとして、パフォーマンスとして魅せることを意識した結果、その痛みも切なさも、伝わってくるエネルギー量が格段に増したように感じられた。今回彼女は本編最後に“My Body’s Made of Crushed Little Stars”でエレクトリック・ギターを弾き語りで歌った以外は楽器は持たず、全編にわたって歌とダンスで表現しきるという構成で進んでいった。


バンドサウンドは、歪んだギターや重く響くベースが印象的でありながらも、無駄に音量を上げるのではなく、核となるのはあくまでもミツキの「歌」であることを思わせるバランスで、オープニングの“Remember My Name”から、あっという間に彼女の世界に引き込まれていった。ひっきりなしにステージ上を行き来しながら歌い強烈な切迫感を表現した驚愕の“Francis Forever”も、シアトリカルなコンテンポラリーダンスとともにドラマチックに歌い上げた“I Will”も、バレエダンサーのようにしなやかな動きで魅了した“Your Best American Girl”も、彼女の目の動き、表情、指先が示す方向、その身体すべてが「表現」だった。想像以上に感動的なパフォーマンスと、彼女にしか出せない唯一無二の揺らぎをたずさえた歌声に、時折ため息のような歓声もわく。アンコールでの“Two Slow Dancers”の神々しささえ感じさせる歌声には、その余韻の静けさの後、割れんばかりの拍手が長らく鳴り止まなかった。

ほんの2年の間にここまでアーティストとしての進化を見せてくれるとは。新作の素晴らしさもあり、今回のライブにももちろん期待していたのだが、予想をはるかに超えて、鮮やかにこちらのイメージを刷新してみせてくれた。もうひとつ前回と大きく違ったのは、“Nobody”で、歌い出しから客席から大きなシンガロングが起こったこと。どれだけ日本のファンがミツキの来日を心待ちにしていたか、その期待の高さを感じさせた瞬間でもあった。もうミツキにとっては今夜の会場も狭すぎるだろう。そう思ったファンも少なくなかったはず。その思いに応えてくれるかのように、今年の夏にはフジロックでの再来日も決まっている。どのステージで、今度はどんなライブを見せてくれるのか、今からひたすら楽しみである。（杉浦美恵）


＜SETLIST＞
1. Remember My Name
2. I Don't Smoke
3. Washing Machine Heart
4. First Love / Late Spring
5. Francis Forever
6. Me and My Husband
7. Dan the Dancer
8. Once More to See You
9. A Pearl
10. Thursday Girl
11. I Will
12. Townie
13. Nobody
14. I Bet on Losing Dogs
15. I Want You
16. Your Best American Girl
17. Why Didn't You Stop Me?
18. Geyser
19. Happy
20. Come into the Water
21. Drunk Walk Home
22. My Body's Made of Crushed Little Stars
23. Two Slow Dancers