アリアナ・グランデ、激震続きの彼女の過去2年が、宇宙のような包容力を持つアートに昇華された最新ツアーのロサンゼルス公演を観た!

アリアナ・グランデ、激震続きの彼女の過去2年が、宇宙のような包容力を持つアートに昇華された最新ツアーのロサンゼルス公演を観た!

2013年、デビュー・アルバム『ユアーズ・トゥルーリー』発表前に初めてアリアナ・グランデのショウを見た。キッズチャンネルの人気ドラマ『ビクトリアス』と『サム&キャット』に出演していた彼女はすでにスターだった。ロサンゼルスの数千人規模のスタンディング会場を埋め尽くした少女達が、ほぼ全員ステージ上のアリアナと同じフレアスカート姿で歓喜の声を上げているのを目にして、「次のビッグ・スターはアリアナだ」と確信した。あれから6年。2019年のアリアナは、昨年の『スウィートナー』に続けて『thank u, next』を再び全米1位にし、Instagramのフォロワー数が女性で世界一(1億5400万人)になり、コーチェラ・フェスティバルのヘッドライナーを堂々とつとめ上げ、ポップ界の頂点に上り詰めた。

3月18日からスタートした「スウィートナー・ワールド・ツアー」は、2枚のニュー・アルバムを発表後の世界ツアーという前代未聞のツアーである。昨年最高の興行成績を達成したドレイクのツアーもダブル・アルバムのツアーで2枚分のボリュームが詰め込まれたショウになっていたが、新作のツアー日程を発後にまた新作を出したアーティストはアリアナしかいない。しかも最新作『thank u, next』から2曲の全米1位シングル(“thank u, next”、“7 rings”)を出して新記録を作った状況で、このツアーは始まった。

5月6日、開演時間前に会場であるステープルズ・センターに向かうと、長蛇の列ができていた。2017年のマンチェスターの爆破テロ事件を受け、今回のツアーはチケット購入者全員に事前に注意事項が送られていた。全ての荷物は無色透明のビニール製のバッグ、またはビニール袋に入れて中身が目に見えるようにすること。かつてないルールだったが、誰もが万全に準備していて列はスムーズに進んでいる。観客の大半は20代前後の若者達だ。そして他のコンサートと比べて、ゲイの人達の割合が明らかに多い。昔からアリアナがLGBTQ支援を誠実に語ってきたおかげだろう。

『スウィートナー』収録の“レインドロップス(アン・エンジェル・クライド)”で始まったショウは、約18,000人の観客をアリアナ・ワールドに飲み込んだ。前回の「デンジャラス・ウーマン・ツアー」よりも進化したステージ・セットは、背後のスクリーンに巨大な半球の突起をつけ、天井から同様に球体のスクリーンを吊るし、曲毎に違う幻想的な映像を映し出すことによって宇宙のような幻想的な空間を生みだしていた。通常は四角いステージ両脇のスクリーンも円形で揃えてある。ステージの両端からはU字型に花道がのびており、U字の中央にもフロアの間を歩ける道があって、アリアナとダンサー達が色々な角度からファンに接近する。照明は一貫して暗く、特にアリアナにスポットライトが当たることもない。コンサートというよりもクラブやレイヴに近い洗練された空間が生まれていた。


『thank u, next』は歌詞もさることながらサウンド面で新次元に到達した斬新なポップ・アルバムで、“7 rings”、“bloodline”、“break up with your girlfriend, i’m bored”等、既存のポップ/R&Bソングの形態を逸脱している曲が多い。そういった新曲の数々もクラブのようなムードを演出しており、総立ちの場内はダンスフロアのように盛り上がり続けた。

『スウィートナー』から8曲、『thank u, next』から9曲、そして過去のヒット曲7曲の全24曲を5部に分けて披露する構成で、アリアナは約15センチのヒールで鮮やかに踊り、力強い声を響き渡らせた。ブラトップにフレアのミニというセクシーな衣装で“ゴッド・イズ・ア・ウーマン”のような官能的な曲を歌い上げる時も、過剰に性を強調しない自然体の愛らしさがある。そんな彼女だから時々Fワードを歌詞に滑り込ませても下品にならず、ただアーバンなスパイスとしてポップな曲に溶け込む。

年々強化されて深みを増したアリアナの歌声は、超高音を出すときも力んでいる感じがなくなった。目を見張るほどパワフルなのに、軽やかな抜け感と艶のある声。この声がダンスミュージックと合わさると曲の高揚感が倍増し、琴線を揺さぶる。『スウィートナー』の“ブリージン”はただ一点に立ち尽くして歌うだけだったが、圧巻であった。

『スウィートナー』の発売直後に元恋人のマック・ミラーの急死、それに次ぐ婚約破棄というどん底を経験し、親しい友人達に支えられながら新曲を書いてニュー・アルバムとして形にするしかなかったスターは、MCでは多くを語らなかった。だが彼女がステージに立ち、2枚の最高傑作を一つにまとめ上げてファンに提供したという事実が、全てを物語っていたと思う。「色々あったけれど今は自分を愛している」という究極のラブソング、“thank u, next”をアンコールで披露した後、アリアナはいつものように「みんな、愛してる!」と叫んで、感謝を告げた。激震続きのアリアナの過去2年の人生が、宇宙のような包容力を持つアートに昇華された素晴らしいステージだった。(鈴木美穂)
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