バイデン大統領就任式でのブルース・スプリングスティーン圧巻のパフォーマンス――“Land of Hope and Dreams”に籠められた想いに迫る

バイデン大統領就任式でのブルース・スプリングスティーン圧巻のパフォーマンス――“Land of Hope and Dreams”に籠められた想いに迫る

先日の議事堂襲撃事件の余波もあり厳戒態勢で開催されたジョー・バイデン新大統領の就任式だが、終わってみれば、アメリカの今後に前向きな気持ちを抱かせるものだったと思う。

何より、そこに音楽と言葉がたしかに存在したこと自体が、アメリカのポピュラー文化やアートが社会にまっすぐに向き合っていることを示していた。レディー・ガガによる国歌斉唱や22歳の詩人アマンダ・ゴーマンによる力強い朗読は日本のニュースでも大きく取り上げられたので、ご存じの方も多いだろう。

また、就任式に合わせたオンライン・コンサート「Celebrating America」にはブルース・スプリングスティーンフー・ファイターズボン・ジョヴィジョン・レジェンド、アント・クレモンズ&ジャスティン・ティンバーレイク、ブラック・ピューマズ、ケイティ・ペリーといったミュージシャンたちが出演し、祝賀ムードを盛り上げた。詳細は中村明美さんのブログ記事(https://rockinon.com/blog/nakamura/197411)にまとめられているので、そちらをぜひご参照いただきたい。

フー・ファイターズのパワフルなロック、アント・クレモンズ&ジャスティン・ティンバーレイクからブラック・ピューマズへのスウィートな流れ、ラテン・ミュージックの豊かさを楽しくミックスしたDJキャシディのプレイなど印象的なシーンの連続だったが、なかでももっとも重みのあるパフォーマンスを見せたのは、他でもないブルース・スプリングスティーンだっただろう。


司会のトム・ハンクスよりも先に登場し「この寒いワシントンDCにやって来られて光栄だよ」と笑ってみせたスプリングスティーンは、ギター1本で“Land of Hope and Dreams”を歌い上げたのだった。

この曲は1999年ごろからライブにおける重要なレパートリーとなっており、のちにアルバム『Wrecking Ball』(2012)に収録されている。そして、スプリングスティーンがアメリカという国に、この社会に、どのようなものであってほしいかの想いを綴ったものだ。

この列車は聖人と罪びとを運んでいく
この列車は敗者と勝者を運んでいく
この列車は娼婦とギャンブラーを運んでいく
この列車は失われた魂を運んでいく
  
俺は言う、この列車は壊れた心を運んでいく
この列車は盗人と死んでしまった優しい魂を運んでいく
この列車は愚か者と王を運んでいく
この列車は――さあ、乗ってくれ


振り返ればスプリングスティーンは、オバマの就任式の際はピート・シーガーとともにウディ・ガスリーのプロテスト・ソング“This Land is Your Land”を歌っていた。


“Land of Hope and Dreams”における「Land」はまさに“This Land is Your Land”と同じ意味の「Land」のことであり、人びとが助け合って生きられる土地のことだ。

トランプ政権がマイノリティの人権を痛めつけた結果、深まった分断を超えるものとしての「人びと」――そこには、勝者も敗者もいる。
スプリングスティーンがずっとアメリカン・ドリームの敗残者の心を歌ってきたことがここで、次の時代の「Hope and Dreams(希望と夢)」と繋がっていくのである。

もちろんバイデン政権になることで何もかも良くなるわけではないだろうし、日本に住む身としては安全保障の問題も含めてその外交政策には厳しいまなざしを向け続けねばならないだろう。

それでも、悪夢のような4年間がようやく終わるということ以上に、今度こそ自分たちの手で未来を作っていこうという心意気がスプリングスティーンの歌には宿っていたし、それは日本に住む自分たちだって共鳴できるものだと思う。


同じ曲を歌う約20年前の映像と比べると、スプリングスティーンはたしかに老いている。
けれども、その歌声は衰えるどころか静かにその力を増しているように聞こえる。

新しい時代のために――その歌は、いまこそ人びととともにある。

どこに行くかはわからないけれど 戻って来れないことは知っているだろう
ダーリン、くたびれたなら俺の胸に頭を乗せてくれ
持てるものだけ持って行こう
そして残りは置いて行こう

(木津毅)



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