ジョー・バイデン新大統領の就任式とその他イベントが無事終了した。史上最大規模の警備体制で行われた就任式が何事もなく終わってまずホッとしている。
コロナ禍でもあるため、通常とは全く違う方法で、一般の観客は最小限に抑えて行われた今回のイベント。Unity(結束)を訴えたバイデンのメッセージを象徴する数々の感動的でポジティブなパフォーマンスが披露された。
式典の全編はまだここで観られる。
https://www.youtube.com/watch?v=39vj3oALMDM
1)レディー・ガガが歌う国歌
彼女のパフォーマンスは終始堂々としていて、この場を楽しんでいるような余裕さえ感じられた。エンターテイナーの役割もしっかりと自覚しているような偉大さがある内容だった。
「アメリカ国民の皆様のために国歌を歌うことになり光栄です。私が歌うのは、式典の中でも、45代大統領と46代大統領への移行と変化の瞬間になります。それは私にとっては非常に大きな意味があります。
私がここで目標とするのは、私達の過去を認識し、私達の現在のためにそれを癒し、私達が愛を持って団結し頑張っていける様な未来へ情熱を持つということです。この国に住む人達全員の心に届くように歌います。敬意と優しさとともに。レディー・ガガ」
また彼女はこの日、スキャパレリ・オートクチュールのドレスを着ていたけど、巨大な金の鳩がオリーブの枝を加えているブローチもしていた。オリーブの枝を渡すというのは仲違いしていた人との仲直りを申し出ることを意味している。分断された国を結束させるというメッセージをこれが象徴していたと思う。
「鳩がオリーブの枝を運んでいます。私達みんながお互い和解できますように」とコメントしていた。
またパフォーマンス前日は、サフラジェット(女性参政権運動)のシンボルである全身真っ白のジバンシィのドレスを着てインスタに投稿。
「明日が全てのアメリカ国民にとって平和な日となりますように、と祈ります。憎しみの日ではなく、愛の日でありますように。恐怖の日ではなく、受け入れる日でありますように。国が未来の喜びを夢見る日となりますように。非暴力的な夢で、私達の魂に安全を供給してくれるような夢でありますように。愛を込めて。首都より」
2)ジェニファー・ロペスがカバーするウディ・ガスリー
女性として、黒人として、アジア系初の副大統領となったカマラ・ハリスが、ヒスパニック系の祖先を持つ初の最高裁判事であるソニア・ソトマイヨールの司式で宣誓した場面はさすがにグッと来てしまった。それに続いてパフォーマンスしたのが、プエルトリコ系のジェニファー・ロペスであり、しかも彼女が、アメリカを代表するフォーク・ソングでありプロテスト・ソングで、これまではボブ・ディランやブルース・スプリングスティーンなどにカバーされてきたウディ・ガスリーの"我が祖国”を歌ったというのも最高だった。それが様々な壁を破り、この政権の多様性を象徴している気がしたから。
しかも彼女は、その中で“アメリカ・ザ・ビューティフル”を挿入したばかりか、スペイン語でメッセージも語り、さらに、自分の曲”Let's Get Loud”も挿入。スペイン語で彼女が語ったのは、「忠誠の誓い」(=私はアメリカ合衆国国旗と、それが象徴する、万民のための自由と正義を備えた、神の下の分割すべからざる一国家である共和国に、忠誠を誓います)の一部だった。それを緩やかな優しいアレンジで歌ったのも良いと思った。
彼女もシャネルの全身白を着用。ガガ同様にサフラジェットのシンボルカラーのひとつで「純潔」を象徴していた。
3)ガース・ブルークスが“Amazing Grace”
カントリーの大スターであるガース・ブルークスが”Amazing Grace”を歌った。
共和党の議員であるRoy Bluntが、この曲にまつわる有名な人としてオバマ元大統領を挙げ、彼が2015年のチャールストンでの銃乱射事件の後に行われたお葬式で歌ったことを語ったのも良かった。
4)式の注目をかっさらった22歳の詩人
これだけ豪華なパフォーマーが出演したにも関わらず、この就任式で一躍大スターとなったのは、22歳の詩人アマンダ・ゴーマンだった。
https://www.youtube.com/watch?v=Jp9pyMqnBzk&feature=youtu.be
彼女はこの日のために書いた“The Hill We Climb”(私達が登る丘)を朗読。日本語の全文訳は色々なニュースサイトに掲載されているのでぜひ探してみてください。
彼女の言葉のひとつひとつが心に刺さったのだが、それは彼女が私達の今抱えている苦痛を容赦なく、的確な言葉で指摘したからだと思う。それでいて、そこから癒しや、いかにして光を見つければいいのかを一語一句パワフルな言葉で語った。その言葉を聴き、彼女を見ているだけで希望が抱けるパフォーマンスだった。ずば抜けた才能だ。
「光はいつもそこにある。
私達に光を見る勇気さえあれば。
私達が光になる勇気さえあれば」
とその詩は締め括られた。
CNNのインタビューで、前大統領が言葉の力を台無しにしてしまったので、自分はこのアメリカの最も重要な場所で、言葉の力を再び蘇らせるのが大事だと思った、と語ったので、感動してしまった。2038年には大統領に立候補したいとも言っている。
アマンダの本はすぐにアマゾンのベストセラーの1位となった。2021年に22歳が書いた詩集が売り上げの1位になるなんて、素晴らしい話だ。彼女に限らず、ビリー・アイリッシュ然り、銃規制を訴えるフロリダの高校生然り、グレタ・トゥーンベリ然り、Z世代のリーダー達はみんな、その場を言い当てる的確な言葉を持っているのが特徴だと思う。
アマンダが違う場でパフォーマンスしている映像もある。カッコいい。
https://twitter.com/TIDAL/status/1351959744295153673
5)22年ぶりにNew Radicalsが復活
New Radicalsは”You Get What You Give”をパフォーマンスした。この曲は、バイデンの息子さんであるボー・バイデンが闘病生活をしている時の、バイデン家のテーマ・ソングだったという。
https://twitter.com/BidenInaugural/status/1352015402214166529
6)トム・ハンクスが司会の“Celebrating America”
あまりに寒そうでかわいそうだった“Celebrating America”の全編はこちら。もちろんパーティなどは行えないので、バーチャルで行われた。
https://twitter.com/BidenInaugural/status/1352062126203019266
7)ブルース・スプリングスティーンの“Land of Hope and Dream”でその番組が開始
この曲は、オバマ元大統領が任期満了で、お別れのスピーチをして去る時に流れた曲でもあった。なので、新政権の幕開けを同じ曲で始めるのは、そこからの流れでもあるのだ。また「明日は太陽の光が輝き/全ての闇はなくなるから」という歌詞が困難な今に希望を与えるのでぴったりでもある。この日のその他のパフォーマンスのテーマも全体的にそういう内容だったと思う。
8)フー・ファイターズは“Times Like These”をパフォーマンス
学校の先生に敬意を表する場面で登場したのがぴったり。「俺の母親も公立学校の先生を35年やっていた」とデイヴ・グロールが語っている。「マッケンジー(ここに登場する先生の名前)やジル・バイデンのように俺の母親も、生徒にとっての良き指導者であった。卒業してからも、誰もが何年経っても忘れないような存在だった。今年、先生達はこれまでにないような挑戦を強いられている。しかし、彼らは献身と創造力で、その挑戦に真正面から立ち向かっている。この曲はマッケンジーや、揺るぎなく子供達を毎日照らしてくれている先生達へ捧げます」と。
9)ビル・ウィザースの“Lovely Day"をカバーしたデミ・ロヴァート
10)Ant Clemons & ジャスティン・ティンバーレイクの“Better Days”
「トンネルの終わりに光が見える」という歌詞で始まる、この日の全体のテーマに通じる曲。
11)ジョン・レジェンドがニーナ・シモンの“Feeling Good”をカバー
12)ボン・ジョヴィが、“Here Comes the Sun”をカバー
13)Black Pumasが“Colors”を演奏
14)ケイティ・ペリーの“Firework”とともにものすごい花火
ケイティは、ヒラリー・クリントンの大統領選でより熱心に応援していた印象だったが、最後の花火にこれ以上ぴったりな曲もなかった。
またこれは余談だが、この日ソーシャル・メディアで最も話題となっていたのは、普段着のままにしか見えないコートとミトンで登場したバーニー・サンダースだ。彼が寒そうに1人で座ってる画像が大量のmemeになっていた(笑)。
個人的に笑ったもの。ニール・ヤングの『On The Beach』にお邪魔するバーニー
売れないバンドのマーチテーブルで凍えるバーニー
ハイム
『デッドプール』
政権が変わって誰もが一番言っているのは、relief=安心した、だ。フィニアスもインスタで言っていたけど、「この4年間、運転手のいない車に乗って不安になっていたような感じだった」と。正に。ようやく運転手が来てくれてみんな安心した、のだ。これまでどれだけ緊迫した毎日だったのかを改めて実感している。
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