ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ。 ロンドンアンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonでのギグを完全レポート

ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ。 ロンドンアンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonでのギグを完全レポート - pic by OTTO MENDELSSONpic by OTTO MENDELSSON

ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴのライブレポートが到着!

ブラック・ミディ「無期限修了」後、ジョーディー・グリープはバンド晩年を特徴づけていた激しさと摩擦から離れ、ブラック・ミディのマキシマリズムの再現ではなく、形式やストーリー、そしてコントロールを重要視した曲つくりに新たな焦点を当てて再出発した。

一方キャメロン・ピクトンは、Camera Pictureとしていくつかの楽曲をリリースしたものの、グループが2023年に活動を終えたとき、すぐにソロアルバムを作りたいとも、別のバンドに飛び込みたいとも感じていなかったという。そんな彼が、時間をかけてようやくたどり着いた表現の形が、彼の新バンド、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴだ。

ロンドン、アンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonで、マイ・ニュー・バンド・ビリーヴを観た。

イギリスで毎年開催される、独立系の音楽・アートヴェニューを称える7日間の祭典、Independent Venue Weekの最終日、キャメロンがこの古巣に戻ってくるーーその事実だけで、この夜は特別な重みを帯びていた。100人も入ればキツキツのThe Windmillは、言わずもがなのソールドアウト。バーエリアの奥に設けられた小さなステージの周りは、おシャレな20代の若者で溢れかえった。

サウンドチェックの流れから、メンバー同士が軽く目くばせをし、“Lecture 25”でライブはスタート。キャッチーなメロディーと疾走感溢れるリズム、若さゆえのアイデアの集中砲火が特徴のデビューシングルは、米小説家・詩人デニス・クーパーの“Lecture 1970”(Dennis Cooper from the book “The Dream Police: Selected Poems, 1969-1993”)から着想を得たという。ライブではさらに跳躍感が増し、各パートがぶつかり合いながらも前へ前へと押し出されていく推進力が、観客の身体を自然と揺らしていく。

演奏が終わると、キャメロンは短く「サンキュー」とだけ告げ、おもむろに携帯電話を取り出す。画面に目を落とし、ひとりずつ名前を呼び上げると、舞台袖で待機していたミュージシャンたちが順にステージへと上がっていく。そして、すでに演奏を終えたバンドメンバーから楽器が手渡され、ざわざわと入れ替わっていく。

キャメロンがギターで次のセットのイントロを反復し始めると、準備の整ったメンバーから順に音を重ねていき、断片だったフレーズが次第に輪郭を持ち、やがて一つの流れへと収束していく。明確な区切りやアナウンスはないまま、場の空気そのものが切り替わり、気づけば次の曲が始まっている。

驚いたことに、今回のショーのすべての曲間が、このような移行方法により執り行われるという、即興性と共同性を前面に押し出した構成になっていた。キャメロンの合図は指揮というより、流れを示す最小限のジェスチャーに近く、演奏の主導権は常に複数の手に分散していた。

そして、今回参加したミュージシャン達だが、その数総勢30人以上。その中には、ファット・ドッグ のモーガン・ウォレスやブラック・カントリー・ニュー・ロードのルイス・エヴァンス、ドライヴ・ヨア・プラウのメンバーも含まれており、一夜にしてこれらの若き多才なアーティスト達の演奏を堪能することが出来るなんて、今夜のオーディエンスは、なんと幸運なことだろう!

ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ。 ロンドンアンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonでのギグを完全レポート - pic by OTTO MENDELSSONpic by OTTO MENDELSSON

ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ。 ロンドンアンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonでのギグを完全レポート - pic by OTTO MENDELSSONpic by OTTO MENDELSSON

ブラック・ミディのメンバー・キャメロン・ピクトンの新バンド:マイ・ニュー・バンド・ビリーヴ。 ロンドンアンダーグラウンドの聖地Windmill Brixtonでのギグを完全レポート - pic by OTTO MENDELSSONpic by OTTO MENDELSSON

セットは、未発表曲を主に進むが、セルフタイトルの新アルバム『My New Band Believe』からは、“Love Story”、そして“One Night”を披露。

“Love Story”では、今回のショーでサポートを務めたキラン・レオナルドが再びステージに上がり、タイトでありながら同時に荒々しくギターを掻き鳴らす。そこに、コーリ・ローズ・スミスのフォーキーなビオラが重なり、幽玄的な雰囲気が醸し出される。

また、“One Night”では、ブラック・カントリー・ニュー・ロードのルイスがサックスで登場。しかしキャメロンは、ここではヴォーカルをとらずに、サラ・メスがノートブックを片手に、ドリーミーな歌声を披露した。

筆者がとりわけ楽しんだのは、ジョニ・ミッチェルの名曲“All I Want”のカバー。オリジナルとは似ても似つかないバージョンではあるが、ロクベ・ラムの無機質とも言えるドラミングに、若干テンポの速いキャメロンのギターと、葛藤を吐き出すようなヴォーカルがあまりにもアンバランス過ぎて、感情が言葉やフォームに追いつかない状態そのものを音にしているように聴こえた。

ラストは、キャメロン一人がステージに残り、ギターのみで、ボブ・ディランの“Make You Feel My Love”をカバー。永遠と続く、ギターの爆音ディストーションをステージに残し、ショーを締めくくった。

曲間の曖昧な移行、編成の流動性、アレンジの未確定さ。今回のマイ・ニュー・バンド・ビリーヴのショーは、完成度よりもエクスペリメンタルなアティテュードを前面に押し出すという、まさにIndependent Venue Weekの精神を体現するようなものだった。

キャメロンは「もうこんなことは二度としない。スプレッドシート作るの大変だったんだから(笑)」と言っていたが、今夜作り出された音楽空間は、再現されることを前提としないからこそ、オーディエンスの記憶に強く残ることとなるだろう。

固定されたバンド編成や完成された楽曲という概念は後景に退き、今この場に集まった人間と音が、どのように結びつくかが優先される。ロンドンのアンダーグラウンドがいまもなお、新しい関係性と表現の実験場であり続けていることを、このライブは確実に証明していた。(近藤麻美)
rockinon.com洋楽ブログの最新記事
公式SNSアカウントをフォローする

人気記事

フォローする
音楽WEBメディア rockin’on.com
邦楽誌 ROCKIN’ON JAPAN
洋楽誌 rockin’on