長い沈黙を破って昨年5月8日に突然行われた、五十嵐隆の――というか中畑大樹(Dr)&キタダマキ(B)を迎えてのSyrup16g編成で行われたステージがついに映像作品化。冒頭から“Reborn”“Sonic Disorder”とSyrup16gの楽曲を惜しげもなく披露しつつ、「犬が吠える」名義での“赤いカラス”や未発表の新曲5曲も織り重ねた全20曲。格段に豊潤さを増して、感情の奥底まで手を伸ばすように響く五十嵐の声、ハイブリッドな手触りのエフェクト音色とカポ使いを盛り込んだ唯一無二のコード感……音楽表現のバラエティが乗数的に拡大している2014年の今でもなお、五十嵐隆にしか鳴らせない歌と音楽があるということを、今作の映像は厳然と証明している。
残酷なまでの自虐性に満ちた五十嵐の歌は、それゆえに聴き手の心の欠落を埋める鎮痛剤たり得てきたと同時に、五十嵐自身を強烈な自家中毒に陥れるものでもあった。が、今作での彼の姿は、そんなかつての己の構図すら対象化し、踏み越えた上で、純音楽的に自らの楽曲と向き合っているように見える。最後の“翌日”に抑え難く胸が震える。(高橋智樹)
五十嵐隆にしか歌えない歌がある
五十嵐隆『「生還」 live at NHK ホール 2013/05/08』
2014年06月01日発売
2014年06月01日発売
DVD