とても幸福なアルバムである。この時代のこの国に、きのこ帝国というバンドがいて、このタイミングで能動的に不特定多数のリスナーが待っている市井の渦に飛び込み、こんなにも解放と開放の光に満ちた作品を生んだということ。きのこ帝国の音楽を浴びることで「恍惚」の感覚は幾度も覚えてきたが、「幸福」とも言えるニュアンスが帯びるようになったのは、昨年末にリリースした『ロンググッドバイ』からだった。最初はささやかな予感だったけれど、そこに決定的な光輝が射し込んだのが本作のリード・シングル“東京”であり、長編の物語として結実したのが本作だ。いや、傑出したソングライターでありヴォーカリストである佐藤の「人と人はいつか離ればなれになり、独立した状態で灰になる」という視座とそこから表出するとても儚く美しい歌のあり方は不変だ。この歌に忘れがたい色彩と情景を与えるバンドサウンドのサイケデリックな音像の美学もまた然り。そのうえで大きな扉が開かれていることに強く胸を打たれる。ロックを扱うメディアや書き手が、きのこ帝国を絶対的に支持しないなんて嘘だ。(三宅正一)