エリー・ゴールディング自身もこの3rdアルバムの壮大なポップ・ワールドを「実験」と呼んでいるが、世界各国のiTunesチャートを制した“ラヴ・ミー・ライク・ユー・ドゥ”や最新シングル“オン・マイ・マインド”といったヒット曲も内包した今作が、前作『ハルシオン・デイズ』のエレクトロ聖歌とでも呼ぶべき厳粛さと大きく異なるのは、まさにその自身の感情のリミッターを解き放ってポップの彼方へと飛び込んでいこうとする躍動感に他ならない。長年制作活動をともにしているジム・エリオットに加え、マックス・マーティンやディスクロージャーのガイ、ワンリパブリックのライアンらを迎えて作り上げられた今作。その歌の透度と精度をさらに研ぎ澄ませながら、美しくミステリアスに織り成されたアンサンブルの隅々にまで瑞々しいグルーヴを吹き込んでみせる、彼女の表現者としての破格の成長を物語る1枚。何より、自分自身が「Delirium（錯乱）」と名付けた今作を通して、タイトル通り統制のとれない感情を統制がとれないままに咲き誇らせながら、そのすべてを鮮烈なトータリティで支配している。圧巻の美に満ちた快盤。（高橋智樹）