「両成敗」のすごさ

ゲスの極み乙女。『両成敗』
2016年01月13日発売
ALBUM
ゲスの極み乙女。 両成敗
どんなにプログレッシヴであろうが、どんなにアヴァンギャルドであろうが、とにかく圧倒的なクオリティと知性と戦略があれば、燦然と輝くポップアルバムになりえることを完膚なきまでに証明している一枚。ゲスの名を世に知らしめたシングルもたっぷり含んだ全17曲。

某大臣がPRのために引用するほど、ゲスのフレーズは耳にこびりついて離れないわけだが、その《私以外私じゃないの》に勝るとも劣らないキラーフレーズの宝庫。それでいて、このアルバムを覆っているのは、別れ、喪失、忘却、諦念、孤独、涙、人恋しさといった、センチメンタルな気分だ。やるせなさとせつなさでぞわぞわがとまらない。そもそも《難しく考えるより/好きになった方がいいじゃない/好きにならなくても/両成敗でいいじゃない》(“両成敗でいいじゃない”)。《なあ、悪くなくたって僕らと争うんだって言うなら/両成敗》(“続けざまの両成敗”)。確かなものがなくなってしまったこの時代に、争うこと自体が空虚であるというような、「両成敗」という概念をアルバムの主軸にすえたことで、ゲスの勝利は決まったとすら思えてくる。川谷絵音、恐るべし。(小松香里)
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