Plastic Treeの有村竜太朗の個人活動による初作品集。バンドでは形にしないまま貯まっていった未発表曲たちに生命を吹き込んだのだという。UKロックへの敬愛を感じる繊細なコード感、サイケデリックな音像など、Plastic Treeと地続きの要素はあるが、聴いた時に感じる印象はかなり異なる。バンドでの彼の歌は原色の絵具を滴らせるような艶やかさが強いが、今作の色調は何処かパステル画のように淡い。しかし、そんな差異の分析を早々に切り上げたくなるくらい、今作を聴くひと時は至福だ。例えば“浮融/fuyuu”のシューゲイザー風味のドリーミーなサウンドの幕、時空がグニャリと歪むかのような揺らぎが生む酩酊感は、堪らない刺激の連続。アンニュイなムードの残響に浸り切れる“恋ト幻/rentogen”、夢見心地のまま走り回るかのような不思議な昂揚感が広がる“猫夢/nekoyume”も気持ちいい。この作品集に耳を傾けると、「良い音=快感」という音楽を聴く喜びの素朴な原点に立ち還れる気にもなる。その喜びがとことん欲しくてひたすら歩んで来たのであろう有村の姿も自ずと浮かぶ1枚だ。(田中大)