最も静謐で美しい絶望のかたち

ロジャー・ウォーターズ『イズ・ディス・ザ・ライフ・ウィ・リアリー・ウォント?』
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ALBUM
オペラ作品『サ・イラ〜希望あれ』(05年)のリリースや『ザ・ウォール』ワールド・ツアーなどを経て、スタジオ盤としては『死滅遊戯』以来実に25年ぶりとなるロジャー・ウォーターズの新作。サウンド・コラージュ的な手法は最低限に抑え、どちらかといえばフォーキーな質感の中で響くロジャーの歌声を、ナイジェル・ゴドリッチのプロデュース&ミックスによる音像が静かに、しかし厳粛に浮かび上がらせていく。狂気を「演じる」のでも「構築する」のでもなく、世界各地の紛争からサブプライム・ローンまで今この時代を「指し示す」以上の狂気が他にあるだろうか?とでも言わんばかりに。

先行シングル“スメル・ザ・ローゼス”が“葉巻はいかが”、“ピクチャー・ザット”が“吹けよ風、呼べよ嵐”を連想させるなど、ピンク・フロイドの残像も色濃く焼き込まれた―いや、もはやソロとフロイドのどちらが本質でどちらが残像か判然としない彼の現在地を、冷徹なまでにハイファイに写し取った1枚、と呼ぶほうが正しいだろう。絶望とともに日常を生きる姿を美しく描き上げた最終曲“パート・オブ・ミー・ダイド”には戦慄必至。 (高橋智樹)