不可解なセレクションに、どこまでヒネくれたヤツなのかと呆れるべきなのか。彼だからこそ作れる有意義なコンピだと歓迎すべきなのか。或いは、レーベルを移籍し過ぎて、30年のソロ・キャリアを物理的に網羅できない事実を嘆くべきなのか。以上の疑問に対する答えは、全て「イエス」だと思う。しかも、この7年ぶりのベスト盤は今夏のUKツアーに合わせて企画されながら、問題発言の連発が抗議運動まで引き起こし、(それが理由とは言っていないが)全公演延期と相成った。よって実に悩ましい1枚なのだが、本人による選曲の特異性とその我の強さゆえに、そこには聴き手をねじ伏せるような説得力がある。
そんな本作の内容は、実質的には88年から7年分のベストだ。シングル曲はごく初期の3曲だけで、あとはB面曲やライブ音源を選び、00年以降の音源は自身のルーツに言及する2曲のみ。14年に発表したルー・リードを追悼するカバー曲と、06年に世に出た、デビュー・シングル“スエードヘッド”のスパークスによるリミックスである。敬愛するメイル兄弟だから許したのか、大胆に切り刻まれた珍作だ。
他方、シングルではないが納得のチョイスと呼べるのが、究極のモリッシー・アンセムとして愛される“スピードウェイ”や、近年ライブ・セットに復活している、92年のB面曲“ジャック・ザ・リッパー”。これらふたつの名曲に共通するのは、実像とパブリック・イメージのズレを題材にしている点だ。あの殺人鬼の視点で歌う後者のアウトロでは、《誰も私の正体を知らない》と繰り返す。確かに我々はここにきてますます、彼が何者なのか分からなくなって困惑している。居直り気味のタイトルと、ジャケットで浮かべる奇妙な表情は、そんな我々をおちょくっているように見えなくもない。(新谷洋子)
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