ヴェイパーウェイヴなのか?というサイバーかつシュールなジャケットにギョッとするが、もちろんそんなことはなく、再生ボタンを押せばどこからどこまでもザ・コーラル。60年代後半から70年代のクラシックなサイケ・ロックやアシッド・フォークを思わせるレイドバックしたフィーリングと、ビタースウィートなメロディを丁寧になぞる歌で溢れている。サマー・オブ・ラブの時代まで一気にタイム・スリップするような“アイズ・ライク・パールズ”で幕を開けたかと思えば、グラム・ロック的華やかさを持ったガレージ・ナンバー“スウィート・リリース”でドライブ感を演出し、マイナー・キーで聴かせるシブい魅力のフォーク“アイズ・オブ・ザ・ムーン”で深みにはまる。エレキがけたたましい“ストームブレイカー”からピースフルなアコースティックの小品“アフター・ザ・フェア”へと至るコントラストで締めるクロージングも見事と言う他ない。
この「ザ・コーラルらしさ」は一朝一夕で出来たものではなく、活動休止からの復帰作となった前作『ディスタンス・インビトウィーン』を経たからこそたどり着けたものだ。エレクトロニックな実験を滲ませた同作があったからこそ、本作のあっけらかんとしたオーセンティシティがあるのだろう。彼らを育み、現在も生活をしているというリバプール郊外はいまでもサイケ・ロックとLSDに彩られているというが、そこで生き続けることがかつて恐るべき子どもたちと言われた彼らの常態としてのサイケ精神を確立させることになったのだろう。このアルバムからはザ・コーラルの揺らぎなさが聴こえる。トレンドに左右されることもスター・システムに破滅させられることもない、終わることのないスウィート・トリップが。(木津毅)
『ムーヴ・スルー・ザ・ドーン』の各視聴リンクはこちら。
ザ・コーラル『ムーヴ・スルー・ザ・ドーン』のディスク・レビューは現在発売中の「ロッキング・オン」10月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。