ビンテージ・ロックの幻想譚

ザ・コーラル『コーラル・アイランド』
発売中
ALBUM
ザ・コーラル コーラル・アイランド

登場時は恐るべき子どもたちと呼ばれたザ・コーラルもすっかりベテランとなり、彼らがずっと参照していた60年代サイケ・フォークのカタログへのアクセスも「若いのに渋い嗜好」というより、もはや求道的な様相になってきた。新世代ポスト・パンクが全盛の現在のUKにあって、ザ・コーラルの柔らかなサイケデリック・ロックは孤高の佇まいすら湛えている。

そして、そんな尽きることのない探求心の現時点での結実として、通算10枚目となる本作は、架空の海辺の街を舞台とした2枚組のコンセプト・アルバムとなった。スケリー兄弟の祖父による雰囲気たっぷりのナレーションが随所に挿入され、観光に沸く街の夏の眩しさと、やがて季節が下って人が去っていく侘しさが描写される。陽光の眩しさが感じられる鮮やかなナンバーが並ぶ1枚目から、次第に霧が立ちこめるようにディープなムードになっていく2枚目への流れも音楽的なストーリーとして示唆に富んでいる。

基本的にはザ・コーラルが得意とするところのサイケ・ロックのクラシック――バーズ、シド・バレット、そしてビートルズ――を見事に蘇らせたナンバーが多いが、それ以前のロックンロールを思わせる“Faceless Angel”のような曲が含まれていることで、20世紀ロックの遺産へのより広範な旅が味わえる作りだ。

ロックの伝統を更新するのではなく、伝統そのものに憑依するザ・コーラルの現在のあり方は、ある意味とても空想的だ。それはロックの黄金期をリアルタイムで知らない世代にとっては、ノスタルジーというよりもファンタジーなのだ。だから本作には、まるで図書館で人知れず眠っていた本のように重厚で幻想的な魅力がある。その物語をじっくりと追いながら、没入したくなる1枚だ。(木津毅)



ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
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ザ・コーラル コーラル・アイランド - 『rockin'on』2021年7月号『rockin'on』2021年7月号

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