「イギリスらしさ」にすがるように、かつ冷酷に見直した最高傑作

ザ・キンクス『ザ・キンクス・アー・ザ・ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ(スーパー・デラックス・ボックス)』
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BOX SET
ザ・キンクス ザ・キンクス・アー・ザ・ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ(スーパー・デラックス・ボックス)

今年で『ザ・ビートルズ(ホワイト・アルバム)』が50 周年を迎えるということなら、ザ・キンクスの本作も当然同じ話になる。実はリリース日までもが同じなのだから。そして、キンクスにとって本作は記念碑的な作品になっただけでなく、リリース時は絶賛を受けながらもセールス的に大コケとなったが、その後バンドの作品中最大の累積セールスを記録するという物語を持っているのだ。その名作のリマスタリング・ボックス・セットの登場である。

もともとこのアルバムは67年の前作『サムシング・エルス』用にレイ・ディヴィスが書いた“ヴィレッジ・グリーン”に端を発したもので、この曲を核にしたトータル・アルバムを制作したいと考えたレイの判断で“ヴィレッジ〜”の収録は先送りにし、新作の一部としてあらためて取りかかることになった。66年頃からアルバムのテーマ性にこだわるようになっていたキンクスだが、意識的にコンセプト・アルバムに着手したのはこれが初めてで、画期的なことだった。

では、「ヴィレッジ・グリーン」とはなんなのか。それはイギリスの古い村落に特徴的な共有緑地のことで、そんな緑地でさまざまなキャラクターが思春期に過ごした経験の思い出が綴られるというのがこのアルバムの内容なのだ。しかし、なぜその思い出が綴られているのかというと、登場人物たちのその後の人生が思わしくないもので、その記憶に逃避するしかなくなっているからだ。そして、この作品の大前提となっているのは、アルバムのリリース当時、そんなかけがえのない思い出と一体化している「緑地」が都市開発などによって失われつつある事実に向き合う視点だったのだ。

こう説明するとどこかイギリスらしさに凝り固まった作品のように思えるかもしれないが、サウンドそのものは60年代末のポップとロックを総括していくような見事な聴きやすさを備えたものになっていて、それでいながら、アメリカのロックからの影響もふんだんに感じさせるダイナミックさを両立させている訳で、そこがこのアルバムのすごいところなのだ。つまり、この作品のテーマとなっている“時代の不可逆的な進行”とは、実はこの音そのものなのだ。 そのステレオとモノ音源両方のリマスタリングに加えて、多数のボーナス音源も加えたのが本作だ。実は「ヴィレッジ・グリーン」というテーマそのものが伝わりにくいのではないかという不安から、当初はイギリス以外では各国バージョンが模索されていた。そうしたバージョン違いに収録されていた楽曲も今回総括できるものになっていて、本当の意味での決定盤だ。(高見展)



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ザ・キンクス『ザ・キンクス・アー・ザ・ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ(スーパー・デラックス・ボックス)』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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ザ・キンクス ザ・キンクス・アー・ザ・ヴィレッジ・グリーン・プリザヴェイション・ソサエティ(スーパー・デラックス・ボックス) - 『rockin'on』2018年12月号『rockin'on』2018年12月号
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