待たされたけど、待っててよかった

リル・ウェイン『カーターV』
発売中
ALBUM

ヒップホップの世界には、大ヒットしたアルバムは「シリーズ化」が許されるという、愛すべき慣習がある。映画で言うところの『ロッキー3』みたいなノリだ。そんな中でも「ウィージー」の愛称でおなじみ、リル・ウェインの看板シリーズと言えば、もちろん『カーター』。04年に第1弾が発表されて以来、驚異的な累計セールスを記録している大人気タイトルである。

でも、11年の第4弾『カーターⅣ』をラストに、その新作リリースは止まっていた。問題の理由は、ウェインと所属レーベル(キャッシュ・マネー)の関係が悪化し、訴訟合戦が泥沼化していたこと――今だから正直に言うけど、僕は去年の時点では、『カーター』の5作目はもう永遠に出ないだろうなと、9割方はあきらめていた。ここ4〜5年間のウェインを巡る状況は、それほど深刻なレベルだったのだ。

でも、でも! 9月28日に発表された本作は、パチモンではなく、正真正銘の『カーターⅤ』である。それも「やっつけ仕事」ではない――この数年間にウェインがコツコツ録り溜めていたトラックの中から自信作を選りすぐった計23曲。収録時間は87分超という、『カーター』の看板の名に恥じない、渾身の力作アルバムである。

過去作と同様、プロデューサー陣には新旧の人気ビートメイカーが集結(スウィズ・ビーツからDJマスタード、メトロ・ブーミンから懐かしのマニー・フレッシュまで!)。客演のラッパーも“モナ・リザ”のケンドリック・ラマーを筆頭に、ニッキー・ミナージュ、トラヴィス・スコット、スヌープ・ドッグなどなど豪華すぎるほど豪華だ。

でも、でも! 本作の主役は、ゲストではなく、リル・ウェイン本人の圧倒的な「存在感」である。全盛期の神がかり的なフロウは、まだ完全には復活していない。でも、苦しい時期を乗り越えた今のウェインの言葉には、以前にはなかった「凄み」がある。その象徴とも言えるラスト曲“レット・イット・オール・ワーク・アウト”の中で、彼は12歳の頃の「自殺未遂」を初告白し、その詳細を赤裸々な心情描写と共に綴っていく――ショッキングな内容だ。でも、2018年のウェインが本気で伝えたいのは、そういう歌なんだ。

しつこいけど、全盛期を知っているファンからすると、もっとやれるだろ?という思いもあるだろう。でも、何はともあれ『カーター』は帰ってきた。まずは、そのことを祝福しよう。ウエルカム・バック、ウィージー。でも『Ⅵ』は、もっと早く出そうね! (内瀬戸久司)



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リル・ウェイン『カーターV』のディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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『rockin'on』2018年12月号