表向きは、破天荒な言動で世間を騒がせる、タフで豪快で陽気な姉御。でもアルバムから浮かび上がる女性像は全く違う。自信を欠いていて、脆くて、不安げで。まさにそのギャップがP!NKの魅力であり、彼女は曲作りを通じてハピネスを妨げる物事と対峙し、自分の中から取り除いて、バランスをとっていると考えるのが自然なのかもしれない。
それでも若い頃は、どちらかというとユーモラスかつワイルドな表現でフラストレーションを発散していたから、ギャップはさほど大きくなかったのだが、ここにきてP!NKの言葉は年々深い憂いや哀しみを帯び、ギャップは広がるばかり。つまり、この8枚目のアルバムはかつてなくメランコリックな作品となり、マイナー・コードのダウンテンポな曲群が聴き手を待ち受けている。相変わらず安定した人気を誇り、ふたりの子供の母親になって、公私共に以前にも増してハッピーに見えるにもかかわらず。今年40歳の誕生日を迎えるという微妙な年齢に加えて、彼女の価値観に逆行するアメリカの政情を鑑みると納得できなくもないが、だからこそ聴き終えた時に得られるカタルシスもまた、かつてなく大きい。
そこに辿り着くまでのP!NKは、コミュニケーションに手こずり、疑念や嫉妬に苛まれている。自分には成長する勇気があるのだろうかと自問している。秘密を抱え込んで怯えている。或いは、母としての自信を失って救いを求めている。そう、若い頃と違う点がもうひとつあるとしたら、かつては矛先を他者に向けることも多々あった彼女が、今は専ら自分自身と対話していることだ。
そんな曲の数々に、徹底してミニマルでオーガニック寄りのプロダクションを施すという決断も正しい。クレジットを見ると、常連のマックス・マーティンやグレッグ・カースティン、ライアン・テダーにベックなどなど、豪華なコラボレーターが参加。R&Bからカントリーまで多彩な味付けがうっすらとなされているものの、驚くほど抑制を利かせた、統一感のある本作の佇まいは、P!NKの定番だった満艦飾のポップ・アルバムとは一線を画す。ギターやピアノの弾き語り、或いはア・カペラに近いスタイルも取り入れて、あの全能の歌声を剥き出しにし、モノローグ的な感覚をいっそう強調している。
そしてカリードやクリス・ステープルトンといった男性シンガーたちが絶妙なタイミングで姿を見せ、そのモノローグを断ち切って、彼女に優しく寄り添う。生きることは苦しみで、愛することは闘いで、人間は独りでは生きられない――。メッセージはこの上なく明快だ。 (新谷洋子)
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