ディラン一座による建国祝賀

ボブ・ディラン『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』
発売中
BOX SET
ボブ・ディラン ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録 - 『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』ジャケット『ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録』ジャケット

確かに今現在のボブ・ディランを体験するのは貴重なことだし、感動もするのだが、しかしこの圧倒的なライブを聴いてしまうと、やはり、まずはこれを聴いてから、と言わざるを得ない。本作は75年10月から12月にかけて行った第1期ローリング・サンダー・レヴューの記録が14枚のCDに収められたもの。15年以上前に『ブートレッグ・シリーズ第5集』として2枚組で出たことがあり、それにもずいぶん感激させられたのだが、今回の充実ぶりはすごい。

一時期の沈黙期を過ごした70年代半ば、創作意欲、ライブへの関心が高まるディランが構想したのは、国中が沸くアメリカ建国200年祝賀の熱と彼流に向かい合うことで、行き着いた企画が、多くの仲間たちと、直前まで日程や会場を知らせずにライブして回る、さながらかつての旅芸人一座、またはミンストレル・ショーのようなものだった(だから顔も白塗りだ)。ライブだけではなく、同行した作家サム・シェパードが『ローリング・サンダー航海日誌――ディランが街にやってきた(Rolling Thunder Logbook)』を書き、ディラン自身が監督&出演した映画『レナルド&クララ』も並行して撮られた。

参加メンバーたちがまず持ち歌を披露し、その後にディランが、というコンサートは4時間におよぶときもあったというが、それがどれほどテンション高いパフォーマンスであったかをたどる4ヶ所5回のフル・コンサートを収めたディスク10枚、さらに新たに見つかったリハーサル音源分が3枚+レア音源1枚で構成されていて、最初にリハ音源が続き、ライブへ、という流れが素晴らしい。ジョーン・バエズ、ロジャー・マッギン(ザ・バーズ)、ジャック・エリオット、ミック・ロンソン、ボビー・ニューワースを始め、ゲストも含め多くのミュージシャンたちが参加したせいもあって祝祭感が全編にあふれ、またリリース前ながら同時期に録ったアルバム『欲望』からのナンバーをどんどん演奏していく一種の高揚感も、他のディラン・ライブとは違った感触を受ける。

基本的なセットリストはほぼ同じなのだが、通常のツアーやコンサートとはまったく違うコンセプトで始められているというのが大きいのだろう、ずいぶん、日によって感情の振幅が大きいのがこうしてまとめて聴くとよくわかる。そしてラストに置かれるナンバーが、ディランが多大な影響を受けたウディ・ガスリーの“我が祖国”で、ジョニ・ミッチェルなども加えて歌い回していくステージには、このプロジェクトにかけたディランの思いがぎっしりと詰まっている。 (大鷹俊一)



詳細はSony Music Entertainmentの公式サイトよりご確認ください。

ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』7月号に掲載中です。
ご購入はお近くの書店または以下のリンク先より。

ボブ・ディラン ローリング・サンダー・レヴュー:1975年の記録 - 『rockin'on』2019年7月号『rockin'on』2019年7月号
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