チャンス・ザ・ラッパーの最新作がリリース前から話題を呼んだ今年の夏。でも、その発売週にビルボードのアルバム・チャートで1位に輝いたのはチャンスではなく、まさかの本作だった――結果を聞いて、「っていうか、NFって誰だよ~!?」と思わず叫んでしまった方も多かったんじゃないだろうか。
日本ではまだ知名度が低いけど、NF(読み方は普通に「エヌエフ」)は、ミシガン州出身の白人ラッパーである。現在28歳で、本作は通算4枚目のアルバム。初期の作品は「クリスチャン・ラップ」と括られることも多かった彼の音楽は、本国ではティーンを中心に熱狂的なファン層を有していて、17年発表の3作目『Perception』の時点で、すでにビルボード1位になっていた。今回もまぐれじゃなく、実力での1位だったんだ。
白人ラッパーの多くがそうであるように、NFの音楽スタイルのモデルはエミネムであり、より具体的に言うと、10年発表の『リカヴァリー』――アル中で一度はドン底に落ちたエミネムが、懸命のリハビリ後に制作した涙の感動作――のフォーマットである。この新作でも、NFは自分自身のネガティブな感情(怒りや不安、周囲からの疎外感、自己嫌悪や自殺願望など)から目を逸らさず、真剣に向き合っていく。そして、病んだ精神状態の探究(=The Search)の軌跡を、真摯で、エモーショナルな言葉で吐き出していく。
全20曲、収録時間は76分。今のヒップホップ・シーンの主流と比べると、ちょっと異端な存在だ。でも、多くのティーンのファンが彼の音楽を必要としているのは、まさにその「他にない“リアルさ”」を求めてのことなのだろう。2019年の全米ナンバー1作の中で、間違いなく、もっとも「まっすぐ」なラップ・アルバム。 (内瀬戸久司)
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