手堅く首位固めの一作

ポスト・マローン『ハリウッズ・ブリーディング』
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ALBUM
ポスト・マローン ハリウッズ・ブリーディング

1年5ヶ月ぶりの3作目。前作『ビアボングズ & ベントレーズ』がまだロング・セラーを続ける中でのリリースで、1枚目から2枚目もそれぐらいのタームだったから、基本的にかなり多作な人ということなのだろう。前作リリースのわずか6週間後の2018年6月には制作を開始し、今年7月末に完成させた。アルバムは前作に続き全米1位を記録、9/21付シングル・ホット100のベスト10内には彼の曲が4曲チャートインしている。アルバム・リリース初週のセールスはテイラー・スウィフトの『ラヴァー』に次ぐものだという。

ダベイビー、フューチャー、ミーク・ミル、トラヴィス・スコット、ヤング・サグ、シザからオジー・オズボーンに至るまで多彩なゲストが参加している。作家陣にはカニエ・ウェストの名も見える。オジーが参加した“テイク・ホワット・ユー・ウォント”は、オジーにとって30年ぶりの全米チャート・トップ10入りとなったという。このオファーがあるまでポストの曲を聴いたことがなかったというオジーは、同曲のプロデューサーであるアンドリュー・ワットと意気投合し、共に新作を制作中であると伝えられている。

つまりポスト・マローンは本作において、今やテイラー・スウィフト並みのポップのスーパースターとしての地位を固め、その影響力はクラシック・ロックのレジェンドの復権に及ぶまでに強大なものとなっている、ということだ。

プロデュースはフランク・デュークスやルイス・ベル、コリアン系のブライアン・リーといったお馴染みのメンバーが堅実にサポートしている。制作にとりかかるまでの時間の短さを見ても、むやみな新境地や新展開ではなく、手堅く前作の延長線にある音作りを狙ったことは間違いないだろう。実際中身を聴くと、前2作の路線を踏襲していることがうかがえるが、プロダクションの精度が格段に向上し、彼らしいまろやかでメランコリックなメロディはさらにキャッチーさを増して、より聴きやすくなっている。楽曲もサウンドもめちゃくちゃに完成度が高く、ゆったりしたテンポのアンビエントでオーガニックな展開ながら、緊張感の糸が途切れず継続して、聴き応えは十分だ。丸みがあってボトムの太い録音も素晴らしい(Amazon Music HDで聴いた24bit/44.1kHzのハイレゾ音源は抜群の音だった)。ポスト・マローンの歌唱の肝は歌とラップをシームレスに繋ぐ洗練されたスムーズさにあるが、ここではラップというよりもほとんど歌のみにフォーカスした歌唱を聴かせる。だからメロディアスでメロウな曲調との相性が抜群に良くて、ポスト・マローンにしか作れない世界が鳴っている。

昨年のフジロックのポスト・マローンのライブで、アコースティック・ギターを手にしての弾き語りを披露したのを観て、彼は新世代のラッパーというよりも、アメリカの伝統的な内省的シンガー・ソングライターの系譜の末裔に位置するのだとはっきりとわかった。髭もじゃの熊みたいな外見とは裏腹のまろやかで温かく人間的な声から放たれる率直で飾らぬ歌詞。「血まみれのハリウッド」というタイトルについてマローンは「LAやハリウッドは、命を吸い尽くす吸血鬼のような人や出来事が多い。ハリウッド自体がそういう存在のせいで徐々に生気を失っているように思える」と語っている。リリックの字面そのものが際だって鋭いというよりも、マローンの声と一体化することで、引き裂かれるような悲しみと暗い井戸の底を覗き込むような孤独とやるせないほどの退廃感が生まれる。その歌は確かにトランプ以降に荒廃していった、世界の傷ついた魂を癒やすかのように響く。大勢の作家やプロデューサーという集団制作体制なのに、あくまでもパーソナルな表現になっているのが良い。

オジー・オズボーンのみならずトラヴィス・スコットやレッド・ホット・チリ・ペッパーズのチャド・スミス(Dr)まで引っ張り出してコラボした“テイク・ホワット・ユー・ウォント”は、オジーのダミ声があまりに強力すぎて、聴き終わってもオジーの曲という印象しか残らないのはご愛敬だが、そうした「異物」をも受け入れて自己の世界を形作ってしまう懐の深さに、アーティストの勢いとスケールの大きさを感じる。全17曲中、10曲が2分台、一番長いもので4分5秒。アルバムの冒頭に2分台の短い曲を並べてアルバムに勢いをつけ、中盤に3分台の曲でじっくりと聴かせ、最後にまた2分台の曲で畳みかけるように盛り上げて終わる構成も計算され尽くしている。

ともあれ本作でポスト・マローンはその地位を盤石にして、テン年代米国ポップ・ミュージックの頂点に立った。次はもう少し時間をかけ、新展開を狙うのでは。 (小野島大)



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ポスト・マローン ハリウッズ・ブリーディング - 『rockin'on』2019年11月号『rockin'on』2019年11月号
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