音楽は未来の武器!!

コールドプレイ『エヴリデイ・ライフ』
発売中
ALBUM
コールドプレイ エヴリデイ・ライフ

ついにコールドプレイの『エヴリデイ・ライフ』がリリースされた。“アラベスク”、“オーファンズ”がいち早く10月25日に解禁されていただけにもどかしかったが、それだけの価値はある、充実感たっぷりのアルバムが届いた。

通算7枚目、4年前の『ア・ヘッド・フル・オブ・ドリームズ』は、ビヨンセノエル・ギャラガーなど多彩なゲスト、プロデュースにスターゲイトを迎え、ときにダンサブルなトラックを聴かせる意欲的なアルバムであったが、ちょうどアデルの『25』とリリース時期が重なり話題性の面で、かなり損してしまったものの、それを持ってのキャリア最大級のワールド・ツアーを展開することで幅広く浸透させてきた。

そんな1年半にも及ぶツアー中に固まってきたのがこの新作のコンセプトだ。さまざまな対立、争いの姿を意識しつつ、世界のどこにいても、誰にでも「普通の1日」は等しく訪れるというテーマを大きく掲げたもので、“アラベスク”を含む前半8曲を「sunrise(日の出)」、“オーファンズ”を含んだ後半8曲を「sunset(日の入り)」としている。

政治や宗教をはじめジェンダーなど、さまざまな局面で見られる対立構造を日常とフォーカスさせるというのは、それほど目新しい試みではないし、もっと言えば、やり方によっては陳腐なものになりかねないが、例えばキリスト教社会とイスラム教社会との歪んだ宗教対立が持ち込まれた世界では、血で血を洗うようなことがひどくなるばかり。だからこそ、全力で立ち向かわなければ、というコールドプレイの決意がストレートに示されたのが、最初に出た“アラベスク”だった。97年に亡くなってしまった、アフリカン・ミュージックの象徴的な存在、ナイジェリアのフェラ・クティの《音楽は武器、音楽は未来の武器》の言葉が引用され、彼の息子フェミ・クティのホーンやベルギーのストロマエが大きくフィーチャーされたナンバーからは、それまでのコールドプレイ・ファンが期待(予想)する世界とは違う感動がわき起こってくる。

単なる“ウィ・アー・ザ・ワールド”的なエイドではなく、もっと深く、カルチャーや歴史を踏まえた、長いスパンでの取り組みを意識してのアプローチであろう。もっともわかりやすい形で迫るのが同じく「sunrise」パートの“チャーチ”で、これには16年に亡くなったパキスタンのカツワーリ(イスラム神秘主義と深い関係にある宗教音楽で、エディ・ヴェダーも共演したりしている)の音楽家アムジャド・サブリの音が引用されたり、エルサレムのグループApo & The Apostlesとやっている女性シンガーNorah Shaqurのアラビックなボーカルがフィーチャーされたりと、ダイナミックにミクスチャーする世界が聴けるが、メッセージは、あくまでも素朴なものだし、多くの解釈をのみ込む許容性を持つのがコールドプレイならではだ。

「sunset」パートにおいても、かつてのボブ・ディランを連想させるアコースティック・ギターで迫る“ガンズ”や、シリアのダマスカスでの爆撃事件をテーマにゴスペル・コーラスを巧みに使うことで深い説得力を聴かせる“オーファンズ”と、メッセージと音楽性のバランスが良く、じっくりと拡がっていく昂揚感が後半に行くに従い、まるで大きな渦巻きを頭の中に起こしていくかのようだ。中世イランの代表的詩人サアディーの「人類の一体性」を訴えた詩をテーマにする“バニ・アダム”から、ストレートにわかりやすいメロディを持つ“チャンピオン・オブ・ザ・ワールド”を経て、すべてが収束していくような安心感に満ちたタイトル曲“エヴリデイ・ライフ”、そして祈るように《ハレルヤ》と歌い込んでいく流れはみごと。

常に繊細な視線で楽曲を紡いでいくのが彼らの最大の魅力なわけであるが、そんな彼らだからこそ前半が「sunrise」、後半が「sunset」とされた本作も、単なる二項対立的なとらえ方や紋切り型の主張じゃなく、混ざり合っていかなければならない部分への柔軟な言及が説得力あるものとなっている。スタジオでじっくりと作り込んだトラックもあれば、あえてラフな質感が残るものもあったりするが、そのアプローチならではの必然性は明快で、聴き込むほどに世界が拡がっていく。どんな大ヒットや歌い上げるアンセムよりも、このアルバムで彼らが求めたのは違っていたし、そのテーマはみごとに達成されている。

ジャケットはジョニーの曾祖父がいた楽団(おそらくトラッド・ジャズ・バンドだろう)の写真と合成させたものだが、さまざまな事象を対立や敵対ではなく、理解し合い、ミックスしていくことを訴える作品にじつにふさわしい。 (大鷹俊一)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』1月号に掲載中です。
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コールドプレイ エヴリデイ・ライフ - 『rockin'on』2020年1月号『rockin'on』2020年1月号
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