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ペット・ショップ・ボーイズ『ホットスポット』
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ALBUM
ペット・ショップ・ボーイズ ホットスポット

実にペット・ショップ・ボーイズである。曲がいい。歌がいい。サウンドがいい。ずっと聴いてきたファンなら、その達した高みに感動すら覚えるはず。そしてしばらく離れていたファンなら、彼らがそのイメージや個性をしっかりと保ちながら、微塵も怠惰なクリシェに陥らず、沸き立つように瑞々しく新鮮な、今のダンス・サウンドに仕上げていることに感嘆するだろう。

約3年9ヶ月ぶりの通算14枚目。スチュアート・プライスをプロデューサーに迎えての3作目でもある。ほとんどの曲をベルリンのハンザ・スタジオで制作している。同スタジオと言えばデヴィッド・ボウイの『ロウ』や『ヒーローズ』、さらにはデペッシュ・モードニック・ケイヴ、そしてU2『アクトン・ベイビー』などで知られる老舗スタジオで、そのアーティストの中でも重い意味を持つような大作・名作を生んでいる。もちろんベルリンの壁のすぐ近くに位置するという歴史的な重みがそうさせるわけだ。PSBは10年ぐらい前からベルリンにアパート兼スタジオを持っており、ベルリンをテーマにしたアルバムを作ることを考えていた。ベルリンが冷戦時代の「ホットスポット(紛争地域)」だったことも念頭にあったようだ。

とはいえ、本作のあちこちにベルリンに関係するイメージやタームがちりばめられているものの、そうした重い政治性や歴史性は薄い。ベルリンの壁がなくなって30年がたち、そうした歴史は遠い点景になってしまったこともあるが、それ以上にPSBの体質も関係しているだろう。彼らは、どんなにシリアスなテーマを扱っても、どんなに批評的なスタンスであっても、どんなに実験的で攻撃的なサウンドであっても、ダンス・ミュージックとしての軽やかさ、通俗性、享楽性、猥雑さ、いかがわしさ、もっといえば「チャラさ」のようなものを絶対に忘れない。U2の生真面目な“約束の地”を、ゲイ文化から生まれたボーイズ・タウン・ギャングのディスコ・ヒット“君の瞳に恋してる”とメドレーにして素晴らしく多幸感のあるダンス曲に仕上げたのがPSBの本領だ。その手腕は本作にも活かされている。

サウンド面ではハンザ・スタジオにあったビンテージなアナログ機材を多く使うことで、厚みのある温かいサウンドを実現している。またあえて今風なサブ・ベースを効かせた重低音も過剰にならず、ほどほどの聴きやすいバランスにしているのはテクノ・ポップの老舗としての経験のなせるバランス感覚だろう。オールタイム・ヒット・メドレーになりそうというツアーも楽しみだ。(小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』2月号に掲載中です。
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ペット・ショップ・ボーイズ ホットスポット - 『rockin'on』2020年2月号『rockin'on』2020年2月号
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