洗練からエモーションへ

サンダーキャット『イット・イズ・ホワット・イット・イズ』
発売中
ALBUM
サンダーキャット イット・イズ・ホワット・イット・イズ

リード曲のタイトルが“ドラゴンボール・ドゥーラグ”。ドゥーラグというのは頭に巻くバンダナのような布で、ヒップホップ由来のストリート・ファッションのひとつ。サンダーキャットはこのドゥーラグを「イケてる度を上げるためのスーパーパワーを持っている」と定義づける。この曲のMVはドラゴンボールの絵柄をプリントしたパンツをはいた、見るからにイケてないオタクに扮したサンダーキャットが、イカしたドゥーラグを拾い、これでオレもモテモテだぜとばかりに着用して女の子に声をかけまくるも、片っ端から振られまくるという内容だ。シティ・ポップス風の洗練された曲調と甘い声で、彼はこう歌う。《君は俺のビデオゲームとかマンガを別に好きにならなくていいよ/でも俺のドゥーラグ、似合ってるかな?》。

海の向こうでもオタクはモテない、イケてないという認識なのだろう。でもサンダーキャットはそんな自分に誇りを持っている。アニメやゲームなど日本のサブカルチャーに深い影響を受け耽溺したことで自己形成した自分に。それはそんなオタク文化との出会いを歌った“トーキョー”(前作『ドランク』収録)にも明らかだろう。そこにサンダーキャットの表現者としての面白さがある。

約3年ぶりの新作である本アルバムはやはり日本文化オタクのフライローが前作に続き共同プロデュース。スティーヴ・レイシー、カマシ・ワシントン、ルイス・コールといった〈ブレインフィーダー〉周辺のアーティストから、チャイルディッシュ・ガンビーノ、リル・B、タイ・ダラー・サインといったヒップホップ〜ファンク組、さらにはブラジルの気鋭ギタリストのペドロ・マルチンスまで多彩なメンバーが集い、ジャンルレスの音楽を披露する。とりわけL・コールを迎えたスラッシュ・フュージョンとも称すべき高速ナンバー“アイ・ラブ・ルイス・コール”や、P・マルチンスが参加した繊細で叙情的なタイトル曲がいい。後者のミゲル・アトウッド・ファーガソンのストリングス・アレンジが素晴らしい。

以前はその音楽性が荒々しさに欠け洗練されすぎていると感じる瞬間もあったが、本作では気にならないのは、アルバムのテーマが彼自身のパーソナルな体験や心情に沿っていてブレがなく、音楽にそうした内面性が素直に反映されているからだ。彼は「このアルバムで表現しているのは、愛、喪失、人生、それに伴う浮き沈みだ」という。哀しみや孤独や喪失感が洗練された音からだまし絵のように浮かび上がってくる。だから彼の奏でる音はかつてなくエモーショナルに響くのだ。(小野島大)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』5月号に掲載中です。
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サンダーキャット イット・イズ・ホワット・イット・イズ - 『rockin'on』2020年5月号『rockin'on』2020年5月号
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