2017年の前作『センパー・フェミナ』から3年。彼女史上最長となるスパンで届けられた新作だが、過去6枚同様、またしても傑作である。この10年強の間、ローラ・マーリングこそ最もコンスタントに最高峰の作品を上梓し続けた作家の一人であると言い切ってしまっていいだろう。その間には、ブリット・アワーズの獲得、グラミー賞やマーキュリー・プライズへのノミネートも果たし、音楽シーンにおける独自の存在感は高まる一方だ。海外においては。しかしながら、この日本では未だ人気・知名度共に充分でなく、来日公演も行われていない状況が続いている。これから初めて彼女の音楽に触れることができる幸運なあなたに、乱暴な紹介をしよう。ツェッペリンの根底にあったブリティッシュ・フォークのグルーヴ感覚と60年代ディランの折衷的なフォーク・ロック・スタイルをごく自然に備えた存在として登場し、ウィルコやパンチ・ブラザーズらが拓いた超現代的アメリカーナの音像を吸収しながらその実力を研磨してきたのが、これまでの彼女のキャリア。そんな化け物的に凄いの?と思うだろうか。そんなに凄いのだから仕方がない。また今作においても、初期を彷彿とさせるフォーク主体の作曲手法に近づきつつ、ドラムの音色が曲毎にかなり細かく録り分けられており、ブレイク・ミルズのプロデュースによる先鋭的な音響アプローチが音像の中核を担っていた前作での経験が血肉化されていることが伝わってくる。特定のジャンルやムーブメントに包含されぬまま独力で上へ上へと突き進み続ける彼女を同時代で追うことができるのは幸福な限りだが、振り落とされないよう、また追う人間が増えるよう、一日も早く来日公演という褒美が与えられることを祈るばかりである。 (長瀬昇)
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