本作がデビュー・アルバムとなるディナー・パーティーは、4人の刺激的なミュージシャンたちが集まって結成された、ジャズ/ソウル/ヒップホップ界の「スーパーグループ」だ。メンバーはテラス・マーティン、カマシ・ワシントン、ロバート・グラスパー、ナインス・ワンダーという4人――いずれもジャンルの垣根を越え、野心的な異種格闘技戦に挑みつづけている、凄腕のガンマンたちばかりである。
昨年の暮れにレコーディングされていたという全7曲は、ひとことで言うと、とにかくすべてが心地よい、極上のフリー・ジャム・スタイルで展開していく。ナインス・ワンダーの繰り出すソウルフルなビートに、グラスパーのメロウな鍵盤が温もりを添え、そこに2台のサクソフォンが親密な会話でも楽しんでいるかのようなトーンで絡んでくる。さらに、全7曲中の4曲には、シカゴを拠点に活動するシンガーのフィーリックスがゲスト参加。最近では女性ラッパーのノーネームとのコラボでも注目を集めている男性シンガーだけど、その美しいファルセット・ボイスは、今回のディナー・パーティーのサウンド風景と完璧に馴染んでいる。
あまりにも心地よくて、夏の夜のプレイリストとしてなにかと重宝しそうな一枚だけど、この4人が集まったからには、ただそれだけでは終わらない。たとえば、6曲目の“Freeze Tag”の歌にじっくり耳を傾けてみると、《彼らは言った/もし少しでも動いたら銃で撃ち殺すぞ》というコーラスが延々とリフレインされてて、実はこれが「ブラック・ライブズ・マター」の時代へ寄せられた、痛烈なメッセージ・ソングになっていることにも気づかされるはず。2020年のためのソウル・ミュージックは、優しさだけでは生きていけないんだ。 (内瀬戸久司)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』9月号に掲載中です。
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