混沌の時代を抱きしめる衝撃の新展開

マリリン・マンソン『WE ARE CHAOS』
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ALBUM
マリリン・マンソン WE ARE CHAOS

前々作『ザ・ペイル・エンペラー』と前作『ヘヴン・アップサイド・ダウン』の制作を主導し、マンソン自身「ジョニー・デップやYOSHIKIX JAPAN)と並ぶ親友」とまで語っていたタイラー・ベイツは現場を離れ、本作では新たにシューター・ジェニングスが共同プロデューサーに迎えられた。ウィリー・ネルソンジョニー・キャッシュと並ぶアウトロー・カントリーの偉人=ウェイロン・ジェニングスの息子であるシューターは、ヴェルヴェット・リヴォルヴァーのシンガー候補であった事実からも分かる通り、一般的なカントリーのイメージで括ることのできないミュージシャンだ。実際その作品は、例えば2010年の『Black Ribbons』に関して本人がナイン・インチ・ネイルズを引き合いに出していたり、2016年にリリースされた『Countach(For Giorgio)』は、エレクトロニック・ディスコ・サウンドの創始者ジョルジオ・モロダーに捧げたカバー・アルバムだったりする。後者に収録された“キャット・ピープル”(※同名映画の主題歌で、オリジナルはデヴィッド・ボウイが歌唱)には、ゲスト・ボーカルにマンソンを起用していたことも、熱心なファンならご存知だろう。4月に出演したラジオ番組で、シューターと組んだ理由を訊かれたマンソンは「変化すべき時だって感じたのさ」と話していたという。これまでも、トレント・レズナー、ボン・ハリス、ティム・スコルド、クリス・ヴレナ、タイラー・ベイツなど、プロダクションのキー・パーソンを変えることで表現を更新してきたマンソンだが、今回シューターとの共謀によって生み出された最新アルバムが、バンド史上でもとりわけ大胆な変革を感じさせるものになったのは間違いない。

手元の資料には、直近のツアー・メンバーの名前も記載されてはいるものの、多忙なタイラーのサポート要員という印象だったポール・ワイリー、ギル・シャロンに代わって去年から参加したばかりの新顔ブランドン・パーツボーンが本作にどれだけ関わっているかは微妙なところ。今年1月に自転車の事故で重篤な状態に陥り、幸いにも回復してきたものの未だリハビリ中であるホアン・アルデレッテもおそらく交代せざるを得ないだろう。ここで演奏を担っているのは、ジェイミー・ダグラス(Dr)、テッド・ラッセル・カンプ(B)、ジョン・シュレフラー(G/ペダル・スティール)、オーブレイ・リッチモンド(フィドル)といったミュージシャン達で、エンジニアのデヴィッド・スプレングとマーク・レインズも含め、全員がシューター人脈だ。同じようにシューターがプロデュースしたダフ・マッケイガン(ガンズ・アンド・ローゼズ)のソロ・アルバム『テンダネス』のスタッフともかなり被っている。ただし、ダフのそれがモロにカントリー路線だったのに対し、マンソンの場合はそう単純な内容になってはいない。昨年暮れ、ジョニー・キャッシュの歌唱で知られるトラッド曲“ゴッズ・ゴナ・カット・ユー・ダウン”や、シューターと関係性の深い作家スティーヴン・キングが原作のテレビ・ドラマ『ザ・スタンド』のために録音されたというドアーズ“ジ・エンド”のカバーを発表していただけに、『ザ・ペイル・エンペラー』のボーナス・トラック3曲で聴くことができたようなゴシックでダークなブルーズ路線へ一気に踏み込むのかと思いきや、実際に完成したアルバムはそうした安直な予想の遥か斜め上をいくものに仕上がった。

特に2曲目に配置されたタイトル・ナンバーから連続する前半4曲のパワー・バラード路線は、多くのリスナーのド肝を抜くことだろう。アルバム後半に入って、ポスト・パンク風のギターもフィーチャーしたヘヴィな“Infinite Darkness”や、シャッフル調ビートを効かせた“Perfume”で巧みにバランスを取りつつ、“Keep MyHead Together”、“Solve Coagula”(※このタイトルは「メンデスのバフォメット」の両腕に書かれた錬金術に関連する言葉)、そしてドラマティックな展開を聴かせる“Broken Needle”のラスト3曲は、統合的に新次元へと到達したマリリン・マンソンをこれでもかとばかり見せつける。古参ファンであればあるほど、初聴時には違和感を拭い切れないかもしれない。もっと渋いブルーズ路線を期待していた筆者も正直そうだったが、何度か聴き込んでいくうちに妙にハマってしまった。果たしてマンソンの決断がどんな結果を引き起こすのか、興味深く注視していこうと思う。

なお、アートワークに使われている絵は、表が「インフィニット・ダークネス」、内側は「ネヴァーエンディング・アストラル・ヴァンパイア」とそれぞれ題された、マンソン自身の筆による作品だ。 (鈴木喜之)



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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』10月号に掲載中です。
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マリリン・マンソン WE ARE CHAOS - 『rockin'on』2020年10月号『rockin'on』2020年10月号
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