「ラウドで激しいプレイの曲もあり、親密で美しい曲もあるが、いずれにしてもこのアルバムは生き生きとしたビビッドな作品にしたかったんだ」というコステロ当人のコメントが、そのままずばり本作の内容を表している。巨匠ビル・フリゼールやウィルコのネルス・クラインが参加した演奏のダイナミズムも文句のつけようがないものだし、ルーツ・アメリカーナからヒップホップまでを横断する幅の広いサウンド・デザインとその中にも一体感をもたらすプロダクションの妙も大変にお見事。
しかしながら、何より本作において心を奪われるのは、血が脈打つような生々しさが迸るコステロのボーカルの素晴らしさと、全曲に強烈にポップなフックを設けたソングライティングの圧倒的な精度の高さである。名曲に次ぐ名曲に次ぐ名曲、脳みそが蕩けそうになる14曲。2018年の前作『ルック・ナウ』は久々のエルヴィス・コステロ&ジ・インポスターズ名義のアルバムとして、それまでの彼のキャリアを総括するような多彩な楽曲群と極まったバンド・サウンドが凝縮されており、その後のグラミー受賞というおまけにも納得の傑作だった。対する本作においては、前作で行ったキャリアの総括を、今度はバンドではなくソロ作家としてやっている印象を受ける。もちろん総括といっても過去の焼き直しではなく、これまでのキャリアにおける成果を持ち寄りながら、未だ成長を止めない稀代のシンガー/ソングライターとして今のエルヴィス・コステロの実力が曇りなく収められているのだ。66歳のコステロが今後の自身のキャリアをどのように見据えているのかは分からないが、少なくともこのモードが続くうちは名盤しか作らないのではないか。そんな風に思えてならないことが、何とも恐ろしい。(長瀬昇)
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ディスク・レビューは現在発売中の『ロッキング・オン』12月号に掲載中です。
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