純度100%のロックアルバム
どんなアーティストでも1stアルバムは往々にして衝動に満ちた作品になるものだが、渋谷すばるの『二歳』を初めて聴いた時は、その衒いのなさ、生々しさに衝撃を受けた。生きることと歌うことがそのまま直結しているようなむき出しの歌だったからだ。ソロで音楽活動を始めるために曲を作ったとか、アルバムを完成させるために楽曲を作ったというような作為はそこになく、呼吸をするように生まれ出てくる歌に虚飾もオブラートも着せず、まさに「その時」の等身大で表現している。ソロアーティストとしてのスタートに向けた心情をまっすぐに伝える“ぼくのうた”や、ロックの初期衝動を直情的に訴えかける“爆音”はもちろんのこと、 苦手なパクチーを捻くれたラブソングになぞらえた“来ないで” のユーモア性など、優れたロックアルバムに不可欠な要素がしっかりと盛り込まれていて、1stアルバムとして申し分のない作品。そして、無理やりにそういう要素を盛り込んだというのではなく、自然と「そういうもの」になっているのがこの『二歳』の素晴らしさなのだと思う。それこそが渋谷すばるというアーティストの魅力なのだ。(杉浦美恵)歌のある世界、君のいる世界
最初に気づく変化は、ピアノだ。ピアノやオルガンの音色が随所で効果的にフィーチャーされた本作は、『二歳』とは比較にならないほど色鮮やかだ。衝動迸るガレージ・パンクの傍にはビートルズを彷彿とさせるエバーグリーンなメロディが流れ、アメリカーナの乾いた風が吹き抜ける大地には、サイケデリックな花が咲いている。渋谷の歌声は温かな包容力に満ちていて、生きるか死ぬかの瀬戸際で叫んでいたかつての彼を思うと感慨深いものがある。彼が歌を通じて自己探求に徹したのが『二歳』だったとしたら、歌を通じた自己表現に喜びと自信を漲らせているのが『NEED』だと言えるかもしれない。《歌が必要だ 俺にはどうしても》(“Sing”)と渋谷は歌う。それは前作でも繰り返し訴えていたことだ。しかし、本作の彼はさらに歌うのだ。俺だけじゃない、「君」にも「この世界」にも歌は必要だろう?と。そう、本作に至って渋谷の眼差しはついに他者と世界に向けられるようになった。君がいるこの世界について歌い、君と心を繋ぎたい(“素晴らしい世界に”)と願うようになった。ひとりの孤独な闘いの日々は終わり、共に生きる明日がここにはある。(粉川しの)
(『ROCKIN'ON JAPAN』2021年1月号より)
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