12月18日にリリースされた“オール・ユーアー・ドリーミング・オブ”は、美しいハーモニーとストリングスを活かしたバラッドで、貧困や虐待にさらされている子供たちを支援する団体「アクション・フォー・チルドレン」のためのチャリティ・シングルとして制作された背景も含めて、これぞオーセンティックなクリスマス・ソングと呼ぶべき一曲に仕上がっている。リアムがクリスマス・ソング?という驚きはあったし、楚々として控えめなUSインディ・フォーク・バンドみたいなジャケットのアートワークも一瞬「誰?」と突っ込みたくなってしまったのも事実。しかしこれが聴けば聴くほど、クリスマスとはリアムのような美しく、温かく、包容力のある声の持ち主にこそ相応しい季節であり、テーマだと改心せずにはいられない仕上がりなのだ。
ちなみにオアシス時代にはスレイドの“メリー・クリスマス・エヴリバディ”をカバーしていたが、あれは実質ノエルのソロ曲であり、そのノエルもデパートのフェスティブCMで使用された“ハーフ・ザ・ワールド・アウェイ”がクリスマス・ソング扱いされるようになったことにむしろ文句を言っていた。だからギャラガー兄弟とクリスマスはあまり結びつかないし、「七面鳥もミンスパイも大嫌い」だと語る兄が自身のクリスマス・ソングを書くことは永遠にないだろう。しかし、対するリアムは意外にもマライア・キャリーやワム!のクリスマス・ソングも大好きだそうで、究極の一般性と普遍性が求められるクリスマス・ソングは、ソロ以降の彼にとって、特に『ホワイ・ミー?ホワイ・ノット』でシンガー・ソングライターとしての円熟味を増し、型破りなロックンロール・スターから盤石の国民的スターへとポジションを更新した現在のリアムにとって、むしろ積極的にチャレンジすべき領域だったということだろう。
ロックダウン中にソロ・アルバムでもタッグを組んだお馴染みのサイモン・アルドリッチとリモートでやり取りしながら書いたというこの曲のボーカルを、リアムは自宅の小さなスタジオでひとりでレコーディングしている。大変だった1年の最後に人々を癒し、励ましたいという素直な気持ちがそのパーソナルな歌声からは溢れ出しているし、ビタースウィートな人生の経験を重ねるうちに自身のナイーブさを隠すことも、本質的な優しさに照れることもなくなった今のリアムだからこそ歌えたものだと思う。彼にとっての教会であるアビイ・ロード・スタジオで最終的にオーケストラと共に仕上げられたそれは、まさに聖歌なのだ。(粉川しの)
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