抑制された世界観と浮遊感のあるサウンド、そして壮絶なファルセットがエモーショナルに響く“French”、アコーディオンの音色と弾むリズムに乗せてやがて訪れる終わりへの道を歌う“メメント・モリ”、オーバーダビングされたギターとコーラスがパーソナルな心象風景を掘り返すような“わたしの音”。音楽的な振れ幅もさることながら、よりインパクトがあるのは、芸術の根源にある死への恐怖と生への執着に向かって直線距離で突っ込んでいくような歌詞の世界だ。記憶を積み重ねながら、そして同時に失いながら生き、その中で幸せを必死に探し、そしてそれを胸に抱いて当然のように死んでいく、人間という存在のありようを、時に寓話的に、時にストレートに描きながら、“わたしの音”の《鼻歌でもいいから/貴方の呼吸を見せて/一秒でも私が生きてるって/知らせて》という一節にたどり着く時、彼がなぜひとりのアーティストとして歌うことを選んだのかという「理由」が浮かび上がる。早熟な天才による、円熟にして覚悟の「デビュー作」だ。ミセスのようで、まったくミセスとは違う。(小川智宏)
歌うべきは「生きて死ぬ」こと
大森元貴『French』
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