実に10年ぶりの新作ということになる、通算5枚目のオリジナル・アルバム。初期からメンバーの顔ぶれが落ち着かず、もはや結成当時からのメンバーはエイミー・リーのみという成り立ちではあるが、彼女の歌声と存在自体こそがこのバンドをエヴァネッセンスたらしめているのだと改めて実感させるに足る、説得力満点の仕上がりをみせている。
ゴシックで叙事詩的な美しさと、ダークなヘヴィネス。インダストリアルなグルーヴと、あくまでオーガニックな歌声。そして、表題自体が象徴しているような現実世界における痛みと、幻想的な壮大さ。両立不能にも思えるさまざまな要素を見事なコントラストで活かしながら自らの世界に聴き手を引き込む力はさすがで、絶望の淵で救いの手を差しのべてくれるような神々しさすら感じさせる。誤解を恐れずに言えば目新しさは特にないし、相変わらずといえば確かにそうなのだが、既視感ならぬ既聴感をおぼえるような普遍的メロディ、予測を裏切ることのない王道的展開も、むしろ安心感を超えた充足感に繋がっている。しかも昨年末で39歳になっているエイミーの歌声には、記憶の中にあるそれ以上に豊潤な魅力が感じられる。
2015年の時点で、ドイツのエピック・メタル・バンド、エクリブリウムなどでの活動歴を持つジェン・マジューラ(同バンドではベースを担当し、ソロ活動も並行)をギタリストとして迎え入れており、本作完成に至るまでには、いよいよ新布陣で本格的に動き出そうとしていたところでパンデミックに見舞われた、という経緯もあるようだ。エイミー自身も当然ながら相応の苦悩を経てきたであろうことが幾つかの収録曲のタイトルからも窺えるが、ロック少女たちにとってのロール・モデル、いまどきの言葉でいえばインフルエンサーたる彼女の使命感が、この〈痛みに溢れていながらポジティブ〉な1枚を誕生させたのだろう。
日本盤にはバナナラマの“クルーエル・サマー”、フリートウッド・マックの“ザ・チェイン”という興味深い選曲によるカバーも追加収録されているが、いずれもエヴァネッセンスにしか聴こえないアレンジで仕上げられており、さらに、このデラックス・エディションには制作現場でのドキュメンタリーなどを収めたDVDも付いている。また、豪華な仕様のボックス・セットも同時発売になるとのことなので、熱心なファンはそちらもチェックしておくべきだろう。そして何よりも、現在のラインナップでのライブ・パフォーマンスに触れられる機会の到来を楽しみにしていたいところ。(増田勇一)
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